38m級はしご付消防自動車(40m)<br>大府市消防本部

日本の消防車両

38m級はしご付消防自動車(40m)
大府市消防本部

大府市消防本部 大府市消防署 [愛知県]

写真・文 ◎ 小貝哲夫
「Jレスキュー2016年5月号」掲載記事

Twitter Facebook LINE

管内状況にマッチした38m級

長さを取るか、取回しを取るか

大府市消防本部が管轄する大府市は愛知県のほぼ中央、知多半島の付け根部分に位置しており、JRを利用すれば名古屋市内まで15分という抜群の立地にある。それゆえ全国的に人口減の流れがあるにもかかわらず、同市では毎年一定レベルで人口が増加している。人口増加とともに駅前を中心に中高層マンションの建設ラッシュが進んでおり、都市開発も盛んという元気な地域だ。

同本部では17年ぶりにはしご付消防自動車を更新することになったのだが、前述のように市の状況が以前とは様変わりしているため、慎重に仕様を決める必要があった。そこで平成25年に当直隊員(3交代制)の各隊から2名ずつと本部の装備担当者2名の計8名でプロジェクトチームを立ち上げ、仕様の検討を開始した。

チームが最初に直面した課題は、増え続ける中高層建築物での消火・救助活動と、狭隘路が多い市内の道路状況に対応できる車両、をどのようにして作るかという点だった。中高層建築物での活動に重点を置くと、梯体が長くなるため、必然的にシャーシが大型化して狭隘路へのアプローチが困難になる。逆に取り回しを優先すると、アクセスできる対象物は増えるが、梯体が短くなるため届かない中高層建築物が増える。この相反する課題に対して、どうやって落としどころを見つけるかに難航したのだ。結果的に導き出されたコンセプトは「機動性に重点を置きつつも、高さを考慮したはしご車」。担当の前田光宣主任は「なんとも曖昧なコンセプトだが、これが決まらないと何も始まらなかった」と当時を振り返る。チームのメンバーは積極的に他市へ足を運び、すでに導入されている当該車両を頻繁に視察してイメージをふくらませていった。

38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
鮮やかなフラッシュレッドに大胆なデザインとラインを採用したオリジナリティあふれるはしご車。
辿りついた結論は40m

梯体を選定するうえで候補にあがったのが、消火・救助戦術の幅が広がる先端屈折式梯体だ。しかしモリタの先端屈折式は梯体長30mと35mの2種しかなく、屈折部より先の梯体長が2.5m。これでは短いのではないかという不安が残ったため、対象車両が導入されている近隣の消防本部へ出向き、実車を確認してまわった。30mの先端屈折式梯体にいたっては、納車前の車両を工場まで見学にいったほどだ。

こうして幾度もの視察を重ねた結果、最終的に梯体は40m直進式、シャーシはモリタ製MH-Ⅱシャーシに決定した。市内の防火対象物をもれなく確認したところ40mあればほとんどがカバーできること、バスケット積載荷重が4名分(400㎏)もあること、リフターが併用できるため、戦術の選択肢が増えることなどが決め手となった。先代車両も同じくモリタ製の40mはしご車だったため、隊員が基本的な操作に慣れていることも採用理由のひとつだ。懸念されていた取回しについては、最新のMH-Ⅱシャーシを採用することで先代車両に比べて全長が54㎝も短くなり、格段に機動性が向上した。

また同車には制振制御装置、垂直水平操作、はしご自動収納、メモリーコントロール機能などの高機能制御機能をフルオプションで装備し、活動上の安全性を高めている。本来であれば訓練によって機関員の技術を向上させるべきところだが、同本部の場合1当務15名のうち救急救命士が優先的に救急車に搭乗する以外は誰がどの車両に乗るかは流動的である。全隊員が出動の合間にすべてを訓練で身につけるのはかなり厳しいのが実情であり、ハード面でカバーできるところはしようという判断のもと、オプション装備の導入を決定した。

バスケット &リフター
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
戦術の幅を広げるため、バスケットだけでなくリフターも装備。リフター底部は蛍光オレンジに塗装し、活動時に視認性を向上させた。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
バスケットの左右にバスケット担架を装着するためのアダプターを取り付ければ、身動きがとれない要救助者の搬送を単独で行うことができる。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
バスケット前面には可変放水ノズルを取り付けた電動放水銃を搭載。泡放水ノズルも取り付けられる。放水銃右側のリモートカメラにより、基部操作台での遠隔操作も可能だ。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
扉は上下に開閉するガルウイングタイプ。壁に接近した状態でも乗降しやすい。可動部分はオレンジ色に塗装した。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
カラビナを掛ける場所はブルーに塗り分けた。誤った場所に装着するミスを防止する。
照明類に工夫あり

梯体やシャーシの仕様が決まれば、次は積載する資機材や周辺機器の選定だ。はしご車は基本的に艤装の自由度が高くない車種だが、だからこそ細かな工夫や資機材のチョイスに本部ごとの考え方やカラーが垣間見える。同本部の場合、はしご車が出動するような事案では救助工作車も同時に出動するため、専門性の高い救助資機材などは救助工作車に任せればいいと考えている。そのため先代車両同様、同車にも資機材は必要最低限しか積載しない方針をとった。こだわったのが照明類で、まずキャブ内の室内灯にはすべて単独で操作できる大型スイッチをつけたLED灯を設置。これは同本部の全車両共通の仕様であり、隊員が別車両から乗り換えた場合でも迷うことがない。また全席の足下灯はスモール点灯で自動点灯する仕様で、夜間活動時の安心感を高めてくれる。車両側面には埋め込み式のLED照明を設けて夜間活動時の作業効率を向上させたほか、操作する機関員がまぶしくないようにリアエプロンの足下照明は下向きに配置するなど、細かな部分への配慮が行き届いている。

梯体& 基部操作台
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
40m直進式梯体を採用。40mであれば市内にある中高層建築物のほとんどがカバーできる。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
梯体付け根にある基部操作台。大型ディスプレイは折畳式で場所を取らない。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
梯体上部の骨組み部分を蛍光オレンジ色に塗装することで、地上からでも梯体の状況が一目でわかる。
38m級はしご付消防自動車(40m) 大府市消防本部
梯体下部の縞板ボックス収納にはバスケット担架やアタッチメントを収納し、取り出しやすくしている。

次のページ:
オリジナリティあふれるデザイン

Ranking ランキング