元ハイパーレスキュー総括隊長に聞く<br>【チーム作り】と【これからの安全管理】

髙山 幸夫 Takayama Yukio

Takayama Yukio

Interview

元ハイパーレスキュー総括隊長に聞く
【チーム作り】と【これからの安全管理】

東京消防庁で消防救助機動部隊、通称ハイパーレスキューの部隊長、総括隊長を歴任され、消防署では大隊長、副署長とさまざまな立場で部隊を率いてきた髙山幸夫。東日本大震災というかつてない難しい現場で活動するために、特別隊を編成し、重大ミッションを遂行。その髙山氏にチーム作りと安全管理について伺った。

写真◎伊藤久巳
Jレスキュー2020年1月号掲載記事

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Profile

髙山幸夫

髙山幸夫

昭和31年生まれ。昭和50年東京消防庁・杉並消防署拝命。昭和52年、杉並消防署 特別救助隊員、昭和63年 奥多摩消防署 山岳救助隊員、平成8年、第八方面本部消防救助機動部隊発足メンバー(隊長/消防司令補)。平成14年 北多摩西部消防署 大隊長、平成18年 第八消防方面本部消防救助機動部隊 部隊長、平成20年 同隊総括隊長、平成23年 東日本大震災 福島第一原発へ出場。平成26年 北多摩西部消防署 副署長 平成28年9月退官。

偉ぶらず、自分らしく
部下を率いよ

明るい職場でなければ
人は育たない

――髙山幸夫さんのこれまでのご自身の経験から、チーム作りで大事なことは何だと考えますか?

 隊や組織の良し悪しはそのメンバーによるところもあるが、部下を育てるためにやってきたことがある。たとえば大隊長として現場の指揮を執る際に、「大隊長、どうしましょうか?」と答えを丸投げしてくる部下や、何でもかんでも隊長のお墨付きが欲しくていちいち聞いてくる部下がいるが、そうなるとスピーディな指揮判断が行えないので、事前に「隊長どうしましょうか?」ではなく、「現在はこういう状況なので、こうしたいが、いかがでしょうか?」というように、自分の考えを含めた具体的な意見具申をするよう指導しておく。そうすれば自分も助けられる。

 一方で、粒ぞろいの有能な部下達を束ねるのも難しい。特に現場活動は消火も救助も命がけ。「この人の指示なら、この隊長のためなら」とまで思わせるような信頼関係は一朝一夕に築けるものではない。私にも見本とすべき憧れの先輩がおり、その隊長を手本として真似ようと思ったこともあるが、真似れば上手くいくかというとそうでもない。

――では、髙山さんはどのようにチームを取りまとめることにしたのですか?

 『らしく、ぶらず』をモットーに、自然体で部下と接していくことにした。背伸びしても出来ないし、カッコつけても仕方がない。ただ一つ、いつも明るくいることだけは心がけていた。上司は常に朗らかでなければならず、部下が「あの人は今日は機嫌が悪いから聞くのをやめておこう」というような上司の機嫌を伺うようでは職場が暗くなりダメだ。職場が明るく伸び伸びとした雰囲気でないといい活動はできないし人も育たない。上に立つ者は、階級が上がれば上がるほど明るさが必要で、太陽のように部下を後ろから暖かく見守るようでなければ育つものも育たない。それは業務を部下に丸投げにするということではない。ふだんから部下の様子をよく見ておき、訓練も現場も厳しく行う。また私自身は、苦手なことに率先してチャレンジする姿をあえて部下に示した。隊長レベルが努力する姿を見せることで、「俺も努力するから、お前らもやれよ」と案に伝えるのだ。

東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊
東京消防庁第八消防方面本部消防救助機動部隊では、航空隊と連携した活動も多かった。

――チームを統率するのに威厳は必要ない?

 リーダーシップの考え方は人それぞれで、上に立つ人には威厳がなければいけないという考えの人もいるだろう。しかし見せかけの威厳では部下は付いてこない。消防組織の場合、試験に合格して昇任すれば自動的に上の階級が付き、下の階級は上の階級の者に従うという仕組みが出来上がっているので、階級が高い=偉いとなりがちだが、それは階級が変わっただけで本当の実力とは限らない。階級と人間性がイコールとなるように自分を磨くのだ。部下が上司に伺いを立てるときに、階級章を見て伺いを立てるようでは、その上司はダメだと思う。部下から個人として判断され、「あの人のためなら!」というようにならなければ真のリーダーとは言えない。威厳を持つことも大事だが、時には悩みを抱えた部下には親身になって相談にのり、ダメな部分も含めて自分をさらけ出し、「〇〇隊長・課長はふだんはだらしないが、いざという時は頼りになるな」と思われるような存在でなければならない。

――最近は、若い職員とのコミュニケーションに悩んでいる隊長もいると聞きますが?

「いまどきの若い職員はこれだから…、俺たちの時代はこうだった」といったことはいつの世代でも言われてきたこと。俺が消防に入ったころにも言われたものだが、昔ながらの伝統的な気合と根性論の指導方法が通用しなくなっているのも事実だ。若手と言っても一人ひとり性格も得意分野も違うので、それぞれに合わせた指導をしていく必要がある。若い世代は、我々の世代よりもよっぽど合理的なので、本人の自覚を促すように指導すれば伸び幅も広い。また若い職員とは日ごろからのコミュニケーションが重要だ。階級が上がるほど若い職員からすると敷居が高くなり、自分から話しかけてくることは少なくなる。その壁をなくすには、上の立場の者から話しかけることだ。私は毎日、その日勤務している全職員と、少なくともひと言は話すことを実践した。

――現役時代にはどんな指導をされていましたか?

 特別救助隊の隊員には勉強熱心な者もいて、資機材の諸元を頭に叩き込んでいるような隊員もいる。けれども、諸元や操作マニュアルを知っていても、「操作ができる」ことと「現場で使える」ことはイコールではない。切断ツールなら、「ここで資機材をこのように持ったら上手に切れる」というようなマニュアルには書かれていないコツを習得してはじめて使えると言える。マニュアルに書かれていない行間の部分が大事なのだ。そもそも予防業務には法律という正解があるが、現場活動はマニュアル通りにはいかないものだ! 特に現場の最前線に立つ救助隊こそ観察力を高め、要救助者の社会復帰まで見据えた活動に必要な解剖生理学を理解し、緊急度と重症度を判断できなければならない。気合と根性だけでは人は救えないのだ!

――大隊長や指揮隊長レベルになると、隊長の経歴によって現場経験の数に差が出てくるものですが、現場経験の少ない隊長でも指揮官は務まりますか?

 確かに近年は災害件数が減っているので、経験がないから自信をもって教えられないという面もあるだろう。だが、経験がないから教えられない、できないというわけでもないと思う。指揮官は経験がないとダメだというが、いかに努力して判断材料の引き出しをたくさん作り、いざという時にこれ!という答えを瞬時に引き出すことができるかが指揮能力である。経験則が求められる現場もあることはあるが、指揮者に不可欠な資質とは状況に適合する戦術を選択、決断し、それを実施する強靭な意志であり、そのために不可欠なのは、旺盛な責任感と使命感であって、経験とは無関係なものである。

ハイパーレスキュー
東京消防庁の救助部隊の中から救助の精鋭部隊として発足した消防救助機動部隊、通称ハイパーレスキュー。写真◎伊藤久巳

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