はしご機関を極めた男、穂積勇基<br>機関員教育を語る 【横浜市消防局】

穂積勇基

横浜市港北消防署 消防士長

Interview

はしご機関を極めた男、穂積勇基
機関員教育を語る 【横浜市消防局】

穂積勇基がはしご機関員となって8年。
その運転技術は誰もが認めるもので、
平成29年には消防学校はしご機関員養成科の助教に抜擢された。
はしご機関員の若きリーダーである穂積勇基が、
横浜市消防局のはしご機関員教育の真髄を語る。

写真・文◎小貝哲夫
Jレスキュー2018年3月号掲載記事

Twitter Facebook LINE
はしご機関員養成の専門プログラム

横浜市消防局は横浜市消防訓練センター(市の消防学校)の専科教育として「はしご機関員養成科」のプログラムを持ち、平成29年度で52回の実施実績がある。はしご車の機関員になるには、このプログラムを修了し、はしご機関員の内部資格を取得することが義務づけられている。横浜市消防局が擁する1631名の機関員資格保有者のうち、はしご機関資格は248名(平成30年1月1日現在)。その素質を認められた隊員だけがなれるポジションだ。

年に1回行われる「はしご機関員養成科」で学ぶのは、毎年8〜12名。参加者は大型免許を取得し、機関員資格を持つ者の中から、機関員実績をもとに書類選考で選ばれ、約3週間で学科30時間、実科90時間の教育を受ける。加えてメーカー・年式の異なるはしご車にも対応できるよう、日替わりで各消防署に配備されている車両が持ち込まれて実習を行う。平成29年は10月10日から27日に行われ、10名が選ばれて教育を受けた。教育する側は教官2名に機関員養成指導者資格を持つ5名のベテラン隊員が助教として加わり、ほぼマンツーマンで指導にあたる。平成28年、はしご車の操縦経験6年目で機関員養成指導者資格を取得した穂積勇基は、平成28年は「機関員養成科」、平成29年は「はしご機関員養成科」で2回続けて助教として機関員教育を担当している。

まずは独特の車両感覚をつかむ

はしご車機関員がまず行うべきは車両感覚の習得である。車体の長さと幅、バスケット部分を含めたフロントオーバーハングの大きさははしご車特有のもので、その感覚を体に覚えさせるのだ。

次に内輪差による巻き込み、20トン近い車重、梯体による上重心を考慮した走行の仕方を学ぶ。車重があるだけブレーキを踏んでからスピードが落ちるまでに時間を要するので、常にブレーキが効く速度を意識しなければならない。また重心位置が高いため、カーブや右左折時にはしっかりとスピードを落とすことも重要だ。さらに、走行時は早めにサイレンの音質を変え、丁寧に周囲の一般車両に声かけすることが緊急車両の存在を周囲に知らせるのに効果的だと穂積は説明する。

安全運転のために運転姿勢の矯正も徹底して行う。「正確な操作ができない片手ハンドルはもちろん厳禁で、クロスした時も手はハンドルから離さない。また私が運転する場合は、安全走行の邪魔になるため防火衣の上衣を着用しないようにしている」と穂積。このほか、車両感覚やタイヤの切れ角などを掴むために、たこつぼや幅寄せなどの訓練を実施する。「たこつぼ」というのは、はしご車の車長約10mに対して12mくらいのたこつぼ形(円形で出入り口が1ヵ所)のコースを設定し、進入口から進入し、できるだけ切り返しを少なくして前進で脱出する訓練だ。

これが運転の基本ポジション

両腕でしっかりとハンドル操作が行えるドライビングポジション。背筋をしっかりと伸ばし、顎を引いて肩の力を抜く。ハンドルは9時15分から10時10分の位置で握るのが基本。

ハンドルの上端を両腕でしっかり握れるかを確認する。
ハンドルを回すときも常に両腕でしっかり握ることで、正確な操作が可能になる。
運転席が高いはしご車では、サイドミラーのアンダーミラーにも目線を送る。 
バックするときは誘導員の指示に加え、目視による安全確認を行う。
ターンの練習

はしご車のような大型車両の場合、右折時と左折時では気を配るポイントが異なる。

【右折時】
1/ホイルベースの長さを考慮して、十分な余裕をもってハンドルを切り始める。
2/前方のバスケットせり出しによる接触に注意する。
3/運転席から顔を出して、縁石の様子を直接目視で確認することも必要になる。
4/後輪が確実に通過するまで右サイドミラーにも注意を向ける。
5/ハンドルを徐々に戻しながら車両を直進方向に合わせていく。
6/右折完了。
【左折時】
1/右折時と同様にホイルベースの長さを考慮してハンドルを切り始める。
2/巻き込みと接触に注意し、左サイドミラーを確認しながらゆっくりと曲がり始める。
3/同時に右側の縁石にも注意を向ける。
4/車高を考慮しながらはしご部分と樹木の接触にも注意している。
5/曲がりきるまで気を緩めない。
6/左折完了。
前進進入とバック進入の違いを知る

後輪二軸のはしご車は取り回しが悪い。横浜市消防局では、このような場所ではバックによる進入を励行している。

【前進により進入】
1/オーバーハングとホイルベース長を考慮して左折を始める。
2/建物があるような状況では、この状態でバスケットが接触してしまう。
3/これ以上進入することはできない。
【バックで進入する】
1/オーバーハングを計算しながら、バックでクランクに徐々に進入する。
2/後輪二輪が縁石の角を通過した辺りからハンドルを切りはじめる。
3/ハンドルの切れ角を大きくしながらゆっくりバックする。
4/ハンドルの切れ角最大で、大きく頭を振ってクランクに進入。状況に応じて、バスケットのせり出しにも気を配る必要がある。
5/車両の2/3が入った辺りから、徐々にハンドルを戻し始める。
6/誘導員の指示を受けながら、バックを続け、見事に収まった。
距離感の習得とバスケットコントロール

実際に計測してみて、イメージした距離どおりになる感覚を習得する。

1/自分の感覚で三角コーンをはしご車の作業限界の14.5m※のところに置き、実際に計測して誤差を確認する。
※バスケット乗車3名モードの場合
2/次に搭乗員の指示通りにバスケットを動かし、コントロールをトレーニングする。
3/レバーのわずかな操作量とバスケットの動きを同期させるには集中力が必要だ。
4/バスケットをcm単位で上下させる。
5、6、7/四隅に置いた三角コーンの間を縫うように8の字を描きバスケットをコントロールする。

次のページ:
どこに部署させるか判断する力をつける

Ranking ランキング