News

救助人材育成ガイドラインの作成担当者に聞く意図と狙い

Twitter Facebook LINE
消防職員が読んでも参考になる

総務省消防庁 国民保護・防災部
参事官付 救助係長
宮嶋大

救助隊の皆さんのみならず、消防職員の方が見ても学べるところが多くあると思います。ぜひ、手に取って読んでみてください。

若手隊員育成のために組織もバックアップを

総務省消防庁 国民保護・防災部
地域情報把握専門官 参事官補佐
田中亮三氏

現在、若手隊員に対する指導がしっかりとできている消防本部と、課題として抱えている消防本部の二極化が起きてしまっています。我々がヒアリングを行っていく中で、課題がある救助隊は、団塊の世代をはじめとしたベテラン職員の大量退職に伴って技術や知識の伝承が滞っている、火災件数が減少傾向にあるなかで災害現場の経験が少ない若手職員が増えていること、自発的でなく指示待ちの隊員がいること、教育が間に合わないまま救助隊員に任命されて現場活動を余儀なくされることなど、人材育成についての具体的な課題とニーズが見えてきました。そこで、人材の育成に関わる救助隊長をターゲットにした、ガイドラインとマニュアルを作成しようということになったのです。

検討会のメンバーには消防本部の救助課長や警防課長などのほかに、人間工学や心理学等を専門とする大学教授の方々にご協力いただき、ガイドラインでは「理想的な救助隊長像」と必要な要素を解説しています。また、様々な消防本部へ実態調査を行い、救助隊長と隊員の育成における主な課題や部下への指導に対する工夫と悩みなどもまとめました。そして、日本航空株式会社にもご協力いただいて、理想的な救助隊長像の能力や具体的なスキルを言語化・見える化して整理する手法として航空業界におけるCRM(Crew Resource Management:コミュニケーション能力、リーダーシップ、チームワーク、状況認識力、観察力、安全管理などのノンテクニカルスキルを高め、安全な運航のために利用可能なすべての人的資源や情報を有効活用する考え方)の聞き取り調査を行い、安全と人材育成を一体とした手法の一部を紹介しています。

かなりのページ数なので、一度読んだだけではすべてを頭に入れて実際の指導や訓練で活用することは難しいと思います。しかし、頭の片隅に「こういう項目があった」と置いていただき、指導で迷った場合に読み返していただいて参考にしていただければという狙いで作成しています。

救助隊長の方に向けて作成した内容ですが、ガイドラインの第1章「ねらい」のなかに「人材育成に対する組織の関与」という項目を設け、組織のバックアップが必要だということを強調させていただきました。救助隊が全体的にレベルアップするためには、その隊が所属する組織が協力して進めることが不可欠です。人を伸ばすためには必要な環境を整えることの重要性をご理解いただければと思っています。

将来指導する立場になったときにまた見てほしい

総務省消防庁 国民保護・防災部
参事官付 総務事務官
石丸央嗣氏

これまで、テクニカルな部分に焦点を当てたマニュアルを公表してきましたが、今回初めてノンテクニカルスキルに焦点を当てて、内面的な部分をテーマにしたガイドラインとマニュアルを作成しました。実際に多くの消防本部で人材育成について頭を悩ませているという状況を知り、20代や30代の若い隊員たちに指導する際に具体的にどうアプローチすればいいのかというヒントを盛り込んでいます。心理学的な要素が大きいので、ガイドラインとマニュアルを作成していく過程で私自身も大変勉強になりました。

新人の救助隊員や若手隊員の方々は、こういった内面的な要素を取り上げたマニュアルよりも、実践的なもので即現場に役立つようなマニュアルを求める方が多くいると思われます。しかし、若手の隊員もいつかは救助隊長や指導者になっていきますので、このガイドラインとマニュアルの存在を知っておくことで、必ず役立つ時がくると考えています。

また、理想の救助隊長像をわかりやすくまとめた総括表や、救助隊長に必要な要素を確認できるセルフチェックシートもご用意していますので、活用していただくことで自分が理想とする救助隊長に少しずつ近づいていけるのではないかと思っています。

訓練をする理由・効果の明示が必要

総務省消防庁 国民保護・防災部
参事官付 総務事務官
岡田大介氏

「俺のやり方を見て覚えろ」といったような、昔ながらの指導法は現代では通用しなくなっています。訓練前のブリーフィングで「なんでその訓練をやるのか?」、「その訓練をやるとどうなるのか?」というイメージ図をチームで共有することが必要です。具体的にどういうことを共有すればいいのかという部分を今回のマニュアルに盛り込みました。

指導を受ける若手隊員が、どうしてその訓練をやっているのかが理解できていないことが一番問題です。訓練をする理由と効果を明確に言語化して、ちゃんと伝えた上でやるとレベルアップにつながります。今回はマニュアルとガイドラインを人材育成の一つのきっかけとしていただければと考えています。救助隊長の方に読んでいただき、日ごろの訓練を行う際の参考にしていただいて、現場の活動につなげていただきたいです。

※それぞれ役職は取材当時のもの

総務省消防庁は令和5年3月1日、「多様化する救助事象に対応する救助体制のあり方に関する高度化検討会(救助人材育成)報告書」および「救助人材育成ガイドライン」、「訓練効果を高めるための救助訓練指導マニュアル」を公表した。今回のガイドラインとマニュアルでは、救助隊の隊長を対象に、若手隊員の育成についてノンテクニカルスキルを中心に指針を示している。従来のテクニカルな部分に焦点を当てたマニュアルとは一線を画したものを公表した意図と狙いについて、総務省消防庁の国民保護・防災部参事付救助係の担当者に話を聞いた。

Ranking ランキング