ドローン運用推進を消防庁に聞く <br>ドローン運用アドバイザー制度

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ドローン運用推進を消防庁に聞く
ドローン運用アドバイザー制度

消防庁は2020年(令和2年)11月、福島ロボットテストフィールド(南相馬市、浪江市)において「ドローン運用アドバイザー育成研修」を実施した。これは同年1月以来、2回目となる開催で、全国の消防本部においてドローンの運用に携わる消防職員に対して実践的な研修を行い、修了者を「ドローン運用アドバイザー」として認定するものだ。
この「ドローン運用アドバイザー育成研修」事業は、全国の消防本部などが安全かつ効果的にドローンを運用できるよう、ドローン運用に関する最新の知識や技術を有する消防職員をドローンのスペシャリストとして育成するとともに、各地域での消防防災分野におけるドローンの普及啓発につなげることを目的にしている。消防庁においてドローン運用を推進する消防・救急課に、本制度の狙いをうかがった。

写真提供◎消防庁(特記を除く)
Jレスキュー2021年5月号掲載記事

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──実災害においてドローンを活用する場面が増えていることを受け、全国の消防本部(局)におかれましても消防活動におけるドローンの有効性について認知度が向上していることと存じますが、特に感銘を受けた、ドローンが活躍した最近の事例、あるいはドローンでなければならなかった最近の事例をご教示ください。

たとえば、次のような場面でドローンが有効でした。

○林野火災での残存火源の確認
○山林内からの揚煙通報に対する現場確認
○延焼中の大規模建物に対する偵察
○地盤崩落現場における地下部分の捜索
○土砂災害現場における活動隊員の安全管理

特に「地盤崩落現場における地下部分の捜索」ですが、2020年(令和2年)8月に横浜市で発生した、地下式の貯油タンクに作業中の重機が転落した事故において、行方不明者を捜索する際に、地上からドローンを操縦して状況確認等を実施した事案があります。

この事案のように、消防隊員を進入させる前に現場の状況を確認し、二次災害の危険性を把握するなど、活動方針の決定に役立っております。

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大規模災害時におけるドローン活用事例。ドローン搭載カメラが撮影した土砂災害現場の俯瞰写真。俯瞰的情報の入手が、被災地域・被災状況の全容把握につながる。

──全国の消防本部(局)における情報収集を目的としたドローンの運用状況について、消防庁で把握されておられます最新の状況をお教えください。

2020年(令和2年)6月1日時点で、726本部中309本部がドローンを活用しており、211本部で災害現場における運用実績があります。

火災時の状況確認、山間部での要救助者捜索、水災・土砂災害等大規模災害時の被害状況の確認等の情報収集に加えて、近年では、自然災害時における活動隊員の二次災害を防ぐための安全管理、鳥獣被害調査や住民の避難状況の確認にもドローンが活用されています。

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同じ建物火災の状況を赤外線カメラで撮影。(写真提供/京都市消防局)

──全国の消防本部からはドローンを運用する上での課題として、どのような声が寄せられているのでしょうか。

耐候性や飛行時間といったドローン自体の性能や、導入・運用に係わるコスト面など課題は様々ですが、多くの消防本部が抱えている一番の問題は、ドローンを運用する人材と人員の確保です。

また、消防本部におけるドローンの活用は近年急速に進んでいるものの、ドローンは直接的に火災を消火できる、あるいは人命を救助できるわけではないので、災害対応の一環としてドローンを飛行させること自体が、地域によっては住民に認知されていない、理解を得られていないとの意見も寄せられています。

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可視光カメラで撮影した建物火災の状況。(写真提供/京都市消防局)

──令和元年度に「ドローン運用アドバイザー育成研修」を立ち上げた背景・経緯をお教えください。

各分野においてドローンの活用が進められるなか、消防防災分野においてもドローンを活用する消防本部が増えている状況にありました。

一方で、ドローンに関する知識・技術等の習得については、各消防本部が独自に取り組んでおり、消防活動においてドローンを安全かつ有効的に活用するためには、必要な座学・訓練等を体系化した研修が必要との考えから、本研修が立ち上げられました。

令和元年度から5カ年計画で実施する「人材育成」と「普及啓発」を2本柱とした無人航空機運用推進事業のなかに本研修を位置付け、今後も全国の現場からの声に耳を傾けながら、他では経験することのできない研修を提供していきたいと考えています。

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令和2年7月豪雨の際に発生した工場火災(熊本県芦北町)。(写真提供/福岡市消防局)

──「ドローン運用アドバイザー育成研修」にはどのような立場の方が受講し、またアドバイザーにはどのような役割を期待されているのでしょうか。

すでに一定のドローン操作技術を持っており、今後は指導的な立場でドローン活用のための技術指導や、運用体制の整備に携わっていくことが期待される立場にある方が、本研修を通して得た知識や技術を、自らの職場へ持ち帰り還元するとともに、周辺本部へも展開、普及させていくことを期待しています。

また、アドバイザーがドローンに関する講義等を全国同水準で提供できるよう、当課では直近の動向を反映した教材を用意しています。消防学校や各消防本部など、アドバイザーの派遣を希望される場合は、当方へ問合せいただきたいと思います。

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令和2年7月豪雨の際に、救助活動の安全管理にドローンを活用(熊本県芦北町)。(写真提供/熊本市消防局)

──一方で、ドローン未導入の消防本部に対して、どのようなサポートを実施していますか。

ドローン未導入本部については、毎年度実施している活用状況調査を通じて動向を把握しつつ、導入を検討する上で具体的なご相談をいただいた場合には、資料の提供や導入本部における活用事例の紹介、要望に応えることのできるノウハウを持ったアドバイザーの紹介等、双方向でのコミュニケーションを心がけ、可能なかぎりのお手伝いをさせていただいています。

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令和2年台風10号の際に、土砂災害による行方不明者を捜索(宮城県椎葉村)。(写真提供/宮崎市消防局)

──「ドローン運用アドバイザー育成研修」は、どのようなメニューで行われるのでしょうか。また研修はすでに2回実施されているかと存じますが、今後の予定、そして最終的なアドバイザー数の目標がございましたらお教えください。

これまで2カ年にわたり、現場の声を聞きながら実践的で現場活動に直結するような研修メニューを練り上げてきました。

内容としては、福島ロボットテストフィールド周辺の広大な敷地を活用し、実機を使ってNISTやATTIといった基本操作訓練からはじまり、自動航行や高層構造物に対する飛行訓練、目視外となる高高度(150m超)飛行、訓練用街区を使った要救助者の捜索訓練といった実技と、ドローンを運用する上での課題や活用事例を議論し、関係法令等を学ぶ座学から構成されています。

今年度は、日頃訓練する機会の少ない夜間飛行訓練も行い、赤外線カメラや積載ライトをフル活用して捜索を行い、その有用性を実感しました。

今後も現場の声を聞きながら実践的で現場活動に直結するような研修カリキュラムを組み、参加者にとって得るものが多かったと言ってもらえる研修を提供していきたいです。また次回の研修については、現時点での予定ですが、令和3年10月下旬から11月中旬にかけて、昨年度と同程度の規模で実施したいと考えています。

アドバイザーの数については、これまでに38都道府県から45名の方々に本研修を受講していただいています。当面は全国に150名を目指して事業を進めて参ります。

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令和元年8月の前線にともなう大雨に際し、浸水地域の被害状況を確認(佐賀県武雄市)。(写真提供/熊本市消防局)
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令和元年台風19号に際し、浸水地域の被害状況を確認(長野県長野市)。(写真提供/新潟市消防局)
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ドローン運用アドバイザー育成研修の様子。アドバイザーによる講義風景。
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ドローン運用アドバイザー育成研修では座学に続き実技訓練も実施。写真は捜索訓練の様子。
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夜間飛行訓練の様子。夜間においてもドローンの有用性が確かめられた。
お話をうかがった方
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(右)
五十川 宏(いそかわ・ひろし)
総務省消防庁 消防・救急課
広域化推進係兼警防係 総務事務官

(左)
平田耕拓(ひらた・こうたく)
総務省消防庁 消防・救急課
警防係長

ドローンは消防活動において大変有益な資機材の一つです。今後、ドローンのさらなる普及に伴い、消防活動がより発展し、ひとりでも多くの命を助けることができることを願っています。

消防庁は2020年(令和2年)11月、福島ロボットテストフィールド(南相馬市、浪江市)において「ドローン運用アドバイザー育成研修」を実施した。これは同年1月以来、2回目となる開催で、全国の消防本部においてドローンの運用に携わる消防職員に対して実践的な研修を行い、修了者を「ドローン運用アドバイザー」として認定するものだ。 この「ドローン運用アドバイザー育成研修」事業は、全国の消防本部などが安全かつ効果的にドローンを運用できるよう、ドローン運用に関する最新の知識や技術を有する消防職員をドローンのスペシャリストとして育成するとともに、各地域での消防防災分野におけるドローンの普及啓発につなげることを目的にしている。消防庁においてドローン運用を推進する消防・救急課に、本制度の狙いをうかがった。
写真提供◎消防庁(特記を除く) Jレスキュー2021年5月号掲載記事

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