原因追究は災害予防に役立つ<br>知られざる「火災原因調査」の世界

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原因追究は災害予防に役立つ
知られざる「火災原因調査」の世界

「火災調査」という業務は、専門性が高いため、消防職員でもよくわからない人がいても不思議ではない。
出火の原因が放火なのか、住人の過失なのか、出火源を突き止めることは予防の観点で重要であるのはもちろんだが、その知識は、現場活動を指揮する隊員や活動に携わる消防隊、救助隊が消火戦術を検討していく上でも役立つ能力である。
この記事では、この「火災調査」について詳しく紹介する。

文・伊藤克巳(元東京消防庁 防災部長) 
取材協力/東京消防庁
写真/伊藤久巳(特記を除く)
Jレスキュー2019年1月号掲載記事

参考文献
1. 火災調査探偵団(写真は北村氏の了承を得て引用) 
2. 火災の実態(東京消防庁) 
3. 新火災調査教本(東京消防庁)

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「火災調査」はなぜ消防が行うのか

火災調査を消防が行う意義

大きな火災があるとテレビニュースでは「火災の原因について警察で調べる」とか「警察によれば○○が火災原因である」と報道される。火災調査は消防も行っているのに、消防の消の字も言ってくれない。私が東京消防庁でマスコミ担当の課長をしていた時に、消防記者クラブの皆さんに「火災調査は消防と警察が同時に協力して行っているのだから、報道時には必ず消防の名を入れてください」と頼んだことがある。その後しばらくの間は、各報道機関は「警察、消防の調査によれば」と言っていたが、消防が警察よりも先に発表することはないこともあって、最近はまた「警察」だけの報道が目立つようだ。

だいぶ前のことになるが、消防に入って間もないころ、希望した調査課で毎日のように火災現場に出て、煤だらけになり現場の復元のために現場を掘ってばかりいた。それなのになぜ、警察の発表がなければ原因を言えないのか、発火源も警察に押収されてしまうことが多く、これでは消防が行う火災調査は意味がないのではないかと悩んだものだ。そんな時、火災調査の先達者である故塚本孝一博士は、「警察の捜査に逆らっていてはだめだ。みな燃えてしまえば何も残らないのだから、消防は残った物と関係者の話をよく聞いて真実を追求すればいい」とおっしゃった。

さて、消防機関で火災原因などの調査業務が始まったのは、1948年(昭和23年)8月の消防法施行以降である。それ以前は、消防は警察組織の中で細々と火災損害を担当する程度だったが、これ以降の火災調査は消防事務として実施することとなった。東京においては警視庁消防部が東京消防庁となり、塚本氏は火災原因調査係長となった。しかしそれまでは火災原因は捜査とイコールでその違いは何かといった議論はされず、しばらくは警察に調査の仕方を教えてもらうような形で一緒に調査を行い、警察と消防が協力して結論を出していた。

しかし、警察の調査の目的は犯罪を捜査し犯人を逮捕することだが、消防は火災原因を突き止めて同様な火災発生をくい止め、広く火災予防に寄与することなので、次第に警察と消防の火災調査に臨む姿勢が変わってきた。警察の火災事件捜査は人物中心で、消防が行う調査は物中心の科学的なものに方向性が大きく分かれ、これが現在の火災調査にも色濃く残っている。消防が火災調査について話すときは、住人や放火犯等の行為者の行動よりもまず発火源を対象とした話題となる。特異な火災があると、電気器具や燃焼器具の欠陥あるいは使用状況の悪さを取り上げる。これはこれでいいのだが、本来はちょっと違うのではないかと思う。

塚本氏によれば「火災は可燃物が燃えてなくなる現象で、物的調査といい科学的といっても手段を講じようがないことになる。たとえば火災原因はたばこであるというが、現場の焼け跡にはたばこが存在しないのに、どうしてたばこということを言えるのかという疑問がわく」と言っていた。消防が行う火災調査は、消火活動に始まり現場保存、発見、通報、初期消火、最先着隊の活動状況を聴取し、焼け残っているものから臨床的に組み立てるものだと教えてくれた。

また、いつも火災調査の現場で会う警視庁科学捜査研究所の故Kさんは、「捜査1課は事件性がない火災には興味がない。普遍的に火災調査を行っているのは消防だね」と言っていた。その言葉を聞いた私は、警察の捜査と消防が行う火災調査は目的と方法が異なるだけに、消防の火災調査はけっして目立ちはしないがやりがいがある業務であると確信したのだ。

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東京消防庁予防課調査課時代の筆者。写真は中国の海外研修生に対しての原因調査の指導。(写真左から2番目/著者提供)

調査員は『探求心』を持て! ──火災調査員に求められる資質──

火災調査は、消火救助活動や救急活動とは全く異なる業務である。その原因調査を担う担当者にはどのような能力が求められるのか? 業務内容から、担当員に求められる主に6つの資質を挙げる。

1.消防が大好きであること

火災調査の業務は地味で、灰かきは結構きつい。そして火災調査書類の作成には時間がかかり、できあがっても読んでくれる人は少なく、そのまま倉庫へ入ってしまう。最近、昔の火災調査書類を見る機会があったが、手書きで500ページもある大変な代物で中身もすばらしいものだったが、それが日の目をみることはなかった。それでも消防が好きで、現場に出向して火災がどのように燃え拡大し消火できるのか、一連の流れを究明したいと思う職員はぜひとも火災調査を目指してほしい。

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火災現場で、電気配線をルーペで確認している調査員。(写真/東京消防庁)
2.多くの現場を見に行く行動力

調査の腕を磨くためには、管内の火災はすべて見ておくことが重要だ。さらに火災調査の内容を検証し、自分の肥やしにする。できれば他の消防本部の火災も見ておきたい。遠くから眺めるだけでも、現場を見ると延焼火災を見る目を養える。私は今でも大きな火災があると自費でもその地に行き全体を眺める。あわせて新聞やネット、本誌などの雑誌を見て自分が火災調査をするのであればどう進めるか想像するのである。

3.人と話すことが好きであること

火災は人的な誤りや放火など人為的な原因が要素となることが多いので、関係者からの情報は極めて大切である。このため過去の事例から人はどのようなときに火災を起こしてしまうのか人間の行動をよく知っておかねばならず、質問するときであっても、カウンセラーとして相手が心を開き真実を語ってもらえるような対応ができるようにしなければならない。

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火災調査員の三種の神器である箒、ちりとり、バケツ。HIDライト、カメラも欠かせない。火災調査官の過酷な業務を象徴しているのが、煤だらけになった防火長靴。
4.必要な知識は何か十分に認識する
①物の潜在的出火危険と火災の痕跡

プラグのトラッキング現象の痕跡や電線のショート痕、油のしみ込んだ布の自然発火、微小火源特有の焼けなどは特徴的な痕跡を残す場合が多い。このため電気機器、燃焼機器、車両、建物構造など潜在的な出火危険や延焼拡大要素に関する知識が極めて重要である。これは日々勉強だ。

②物質の燃焼性状の把握

たとえば布団や衣類に使われるポリエステルは図1のような化学記号なので、微小火源では着火しないが、裸火では容易に着火する。綿布団では微小火源によって、無炎燃焼から時間を経て有炎燃焼へと進展する。反対に窒素系の繊維やプラスチックは燃えない。このように物質には固有の燃焼性状があり、文献や実験などで確認しておく必要がある。

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図1
③関係法規と社会情勢の知識を持つ

建物には消防法や建築基準法の規制がなされ、車両や船舶などにはその分野の規制がある。人の行為には電気工事や溶接の技術基準があり、高圧ガスや毒劇物には取り扱い貯蔵の法令がある。さらには製造物責任法、民法、刑法、そして情報開示に関する条例などもある。またラック式倉庫や水素スタンド、車の自動運転など、新たな技術革新や社会変化にも積極的に対応しなくてはならない。

5.再現実験への積極的な参加

実火災と同じ状況を作って再現実験をすることは大切で、それを参考にすることも重要であるが、同じ状況を作り実験をしてみてもそう簡単には燃えない。綿布団とたばこのような典型的な火災を実験してみると、条件にもよるが燃え上がるのは30%程度だ(リップたばこ検討時)。また昔の話だが、川岸から2m離れた川の中で直径5cmの杭が燃え、その原因はたばことされていた火災があったが、これを再現することは極めて困難だ。岸からたばこを1万本投げ入れてもあの杭の上には1本着地すればいい方だし、着地しても燃え上がる確率はさらに数百分の一だろう。そういうことを頭に入れて再現実験に臨むべきだ。

6.先入観にとらわれない

先に発火源を検討すると、先入観にとらわれる。出火時から鎮火、調査前の検討、復元まで火災全体を検討する姿勢が大切である。その重要性については、次の事例で参考にしてほしい。

〈調査力をUPさせる秘訣〉出火箇所を絞り込む

焼けの方向性は柱から

火災調査は、警察と消防が合同で始めるので、消防が持っている情報と警察の持っている情報を照らし合わせて、調査の範囲を決定するが、警察は聞き込み捜査で得た情報や関係者の供述によってはかなり限定した部分しか捜査を行わないこともある。事件性がないと特にそうだ。消防は警察よりも先に火災現場に入り消火活動を現状保存まで行っているわけで、しっかりとした焼けの見方を身に付けて、その方向性を見出しておく必要がある。

焼けの方向性が顕著に出るのは、日本家屋だと柱と梁だろう。火災の熱をより強く受けた柱は、その炭化の深さによってどちら側からの延焼かを推定できる。さらに木製の天井には明白な焼けの方向性が示される。

金属窓枠の溶け方も燃えの方向を示す

たとえば延焼建物のひさしを見ると、焼けの変色から燃えの程度が推測できる。また金属の溶融はその場所の到達温度を示すので、私は延焼の方向性を決める時によく使っていた。アルミニウムは約660℃で溶けるので、火災熱でアルミ製の窓枠などは簡単に溶けるが下方は残っている場合が多い。すると燃えてきた方向はアルミの溶けが大きいので方向性が分かる。また鉄は1530℃なので火災熱ではめったに溶融しないが、鉄骨造などで火災熱によって座屈する場合があり、これは明確に方向性を示してくれる。それでは銅はどうか。銅は1083℃である。これは火点直上にある銅線は燃えて溶融することがあり、短絡痕と間違える場合がある。このため常に火災現場で溶融した銅線を見つけ、実験で作った短絡痕との違いを知っておく必要がある。さらにはコンクリートもその方向性を示してくれる。「煤付着」「煤が燃焼し生地が出てくる」「表面仕上げのモルタルが剥離」「コンクリートが爆裂する」順に火点に近くなる。

このような焼けの強弱をあらゆる角度から検討し、その延焼の方向性を見出し、それらが交差する場所が出火箇所なのだ。

発火源を判読する

出火室の発掘後の写真を見ると、右側に冷蔵庫、正面奥の窓に2口ガステーブル、その左に流し台、その左横には出入り口がある。出入り口の上り框付近の床には焼け抜けが2カ所ある。ガステーブル、流し台ともに下部の架台が焼けて座屈している。読者はここまでで火災原因は何であると推測するだろうか。

このように、様々な原因を推測することが実はとても重要なのだ。少なくとも冷蔵庫に関係する電気火災、ガステーブルの使用中の放置、床の燃えぬけかゴミ箱内のたばこ、出入り口付近なので放火など推定できる。この焼損状況から、焼け抜けだけに着目してしまうとたばこなど微小火源によるものと思ってしまい、大きな間違いとなってしまう。この火災原因はガステーブルだったのだが、複数の出火原因から、総合的に最も合理的に説明できる出火原因を導き出す必要がある。

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発掘後の状況。
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復元後の写真。
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上の写真は建物の梁部分であるが、これを見ると左から右側に延焼したことがわかる。
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こちらの写真の柱をみると、焼けの深さにより建物の奥から手前に延焼したことがわかる。

火災を見る「目」が真実を突き止めた
真実追及で救われる例がある

警察と分かれて火災調査した珍しい事例がある。火災調査に従事し始めたころ、先に述べた科学捜査研究所の故Kさんといつも一緒だった。火災現場では捜査の人たちからは「先生」と呼ばれていた。私は非常に仲良くしていただいた。現場では刑事コロンボのようなコートを着て「う〜んこれは漏電だな」と言ったり、「これは人糞だ。放火に違いない。犯人は放火の前には緊張して脱糞するんだ」と名セリフを吐きながら調査を進めていた。真偽の程はわからないが、警察は割合と原因を最初に決めつけてその証拠を集めることが多かった。

今回紹介する火災は、もうかなり前、府中市であったものだ。写真1は消防隊現着時の写真で、防火造2階建て1階3戸2階3戸、計6戸のアパートのうち2階部分が延焼中である。燃えているのは2階5号室で母子家庭の部屋である。

速報情報によると、子供の火遊びでその子供と隣室のお年寄りが亡くなったとされていた。私は火災原因調査担当係長だったので、翌日は日曜だったが火災調査に出かけた。先着隊の情報によれば2階は東側の5号室の西側が激しく燃え、中央の6号室は火勢が弱かったとしている。

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写真1

写真2に示す通り、現場に立つと2階の右から5号室、6号室、7号室で、5号室で11歳になる子供と、6号室では80歳になる男性が亡くなっている。手を合わせ「しっかりとした調査をします」と誓った後、全体をみると小屋裏は一様に強く焼けている。ぐるりと周囲を回ってみたが、右に回って5号室の状況をみると、よく燃えており、子供が一人でいたのであれば子供の火遊びは十分考えられる。子供はほぼ全身炭化し、頭蓋骨は露出しているような状況で、何ともかわいそうで涙が出てしまった。調査開始時には母親が立ち会ったが、自分の子供が火遊びをして火を出してしまった、申し訳ないという雰囲気で、その責任からかしっかりとした受け答えをしていた。

警察と調査の方向性の検討を始めたが、警察は「これは建物内からの出火で、5号室しか燃えていなかった」という周囲からの聞き込み情報と、23時30分頃の5号室は子供が一人でいた状況などから、右側の5号室が出火したと決めつけていた。そして調査する現場はこの部屋だけで良いのではないかとの意見も出た。私が「この焼けを見ると、どの部屋とも断定できないのではないか。できれば消防は真ん中の6号室を中心に調査したい」と申し出ると、警察はすぐに了解し、警察と消防が分かれて調査をするという前代未聞の活動となった。

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写真2

写真3にあるように、調査が始まって6号室から5号室を見ると、その境の壁が抜けており、わずかに消防側の6号室の方が焼けが強いではないか。堆積物を除去すると6号室の一室の畳が深く燃えこみ、さらにその焼けは台所方向にあった石油ストーブに集中していた。まさにここが出火箇所だ。この段階で警察にそちらは何か出ましたかと聞くとまだだというので、こちらはかなり近いものが出たよと言って、この部分の説明をすると、これはホンボシだな、と言って全員6号室の調査にあたったのだ。

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写真3
原因は高齢者室の石油ストーブ

写真4の石油ストーブを見分する。ストーブはカートリッジタンク式の反射型ストーブである。ストーブ全体は真っ黒に煤け、上蓋が取れた状態で焼損し、調節つまみも焼失している。燃焼室は鉄板で燃焼筒を覆い、その上にやかんが乗った状態である。やかんを見ると中は空で底には穴が2ヵ所空いている。ストーブの芯は全部上がって全開の状況であった。これらの証拠により出火箇所は6号室の台所で、発火源は5号室との壁際にあった石油ストーブであることがわかった。ストーブは夜間に空焚きとなり灯油タンクが過熱され、灯油があふれ出て火災となったものと断定した。経過は住人のストーブの改悪、着火物は紙製品(ストーブに接していた段ボール)と判明したのだ。その説明を母親にしたところ、今まで気丈夫に対応していた母親が急にその場に泣き崩れた。私はその時にこの火災調査という仕事をずっとやっていきたい、そして絶対に妥協しないことを誓った。(実際はその直後、消防大学校に火災原因調査担当の助教授として異動となり、残念ながらその後この業務に戻ることはなかった)

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写真4

火災調査業務の未来

1.調査結果はどう活かしていくのか
①CRライター規制

東京では平成18年から平成22年まで、5年間で子供の火遊びに起因する火災は718件発生し、7人もの方が亡くなり、そのうち全体の7割がライターによるものであった。平成22年3月に発生した火災は、2人の子供が押し入れ内においてライターで火遊びをして出火したもので、2人とも亡くなったという悲劇があった。この子供らは、両親がたばこを吸っていたこともあって、日頃から電子ライターを火遊びの道具として使っていたのだ。このため東京消防庁は東京都と連携し、すでにアメリカやEUで規制されている非CRライターの規制を経済産業省に働きかけ、平成23年9月からCR機能を持たないライターは販売禁止となった。

これは本題と関連がないが、この時の経産省の会議には私も出席しており、担当大臣が「東京には数億個の100円ライターが出回っているが、これを早急にコンビニなどで収集する必要がある。東京消防庁さんどうですか?」と聞かれたが、「集めることにより危険性が増す。今までの方法で廃棄すべき」と答えた。調査結果が国の政策として反映されているのだ。

②その他の事例

前項でも述べたが、火災調査の最終目的は将来の火災予防に寄与することである。CRライターの他には風呂の空焚き防止装置がある。昭和52年ごろまでは風呂の空焚きによる火災は年間260件も発生していた。風呂の浴槽の水栓が中途半端だったり水栓そのものをし忘れてしまい、水がない釜が過熱され火災を起こしていたのだ。この調査結果の積み上げから、昭和52年に空焚き防止装置を組み込むことを条例に定め、以後確実に風呂の空焚きによる火災は減少し今では年に数件である。そのほか電気製品についても火災の都度メーカーや世論に訴え、アイロンやガス器具などに安全装置を組み込み、火災発生を抑制することに成功してきた。

2.もっと広く公表すべき

大きな火災があると、やはり市民も出火原因が気になるところであるが、消防からは一向にその結果が公表されないし、積極的に公表する傾向にない。1年経ってもまだ結果が出ず公表できないものもある。その点、警察はその日のうちにほとんど公表しているではないか。製造物責任法が施行され、製品の安全性の面から開示請求されるケースも多くなっており、裁判になれば火災調査書類が参考資料あるいは証拠となるので、慎重な姿勢は理解できるが、火災予防という大義名分があるのだから火災調査速報の公表に是非とも取り組んでほしい。また個人情報保護の観点から公表できないという意見もあるが、個人を特定できないよう工夫すればいいのではないかと思う。これだけの火災調査技術を持ち、人と税金を使って行っている業務をオープンにすべき時が来ている。

また火災の発生場所や死傷者の名前なども、個人情報なので伏せるべきだとの意見もあるが、公共の安全を脅かす可能性があることから、関係者へ知らせる意味からも出火原因は早く市民へ知らせることは必要だ。

3.調査技術を事故調査にも活用すべき

15年ほど前、東京都港区で自動回転ドアによる死亡事故が発生した際、同種の事故がどのくらい発生しているのか調べることになったが、どうしてもわからなかった。救急の搬送書類には、事故発生原因の項目がなかったためである(今では検索できるようになっている)。そこで回転ドアだけでなくエスカレータ、エレベータ、遊具など7種の機器に関するものについて調査を行ったところ、年間に2177人もの人が受傷し、最も多かったのはエスカレータによるものであった。このような経緯からエスカレータに係る事故防止対策の委員会を開催し、安全な利用法の普及や運転スピードの調整などの対策を講じた。

図2はエスカレータによる事故により救急車で運ばれた人の年代別人数(東京消防庁の平成24~28年の統計)だが、やはり子供と高齢者が多い。

他にも事故で救急車が対応した事例はたくさんあるが、ほとんどがその原因や対策について追及していない。もちろんたった3名乗車の救急隊にそれを求めるのは酷で、そのような事故には他の職員を派遣して調査すべきだろう。そこに火災調査の手法が活かせるのではないだろうか。是非とも火災調査の中に事故調査のセクションを設けてほしい。

 「火災調査」は消防法の第7章に規定し、31条に「消防長または消防署長は、消火活動をなすとともに火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならない」と根拠があるが、事故の傷者を救急が扱ったとしてもその調査をする根拠がないのではないかという人もいる。しかし救急条例の中にひっそりとその根拠が見られる。救急業務等に関する条例2条の2の5にこのように書かれている。

「……都民生活において生ずる事故を予防するため事故の状況等についての確認……事故の状況等の公表…知識の普及意識の啓発を図る」

今後火災調査の技術が、救急事故やあらゆる災害の調査に活かせる時代が必ず来ると思う。

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図2 年齢層別搬送人員
「火災調査」という業務は、専門性が高いため、消防職員でもよくわからない人がいても不思議ではない。 出火の原因が放火なのか、住人の過失なのか、出火源を突き止めることは予防の観点で重要であるのはもちろんだが、その知識は、現場活動を指揮する隊員や活動に携わる消防隊、救助隊が消火戦術を検討していく上でも役立つ能力である。 この記事では、この「火災調査」について詳しく紹介する。
文・伊藤克巳(元東京消防庁 防災部長)  取材協力/東京消防庁 写真/伊藤久巳(特記を除く) Jレスキュー2019年1月号掲載記事
参考文献 1. 火災調査探偵団(写真は北村氏の了承を得て引用)  2. 火災の実態(東京消防庁)  3. 新火災調査教本(東京消防庁)

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