ダンプカー陸橋接触・落下事故<br> ―52トンの橋桁の下からの救出―

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ダンプカー陸橋接触・落下事故
 ―52トンの橋桁の下からの救出―

暮れも押し迫った12月15日(平成30年)、深谷市消防本部の歴史上、最も困難な事故が発生した。
長期化する救出活動の難局を同本部はどう乗り越えたのか?
その経過を追いながら、指揮隊の臨機応変な対応を見ていく。

文・写真(人物)◎小貝哲夫
災害現場写真・図◎深谷市消防本部提供
Jレスキュー2019年3月掲載記事

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10:38 <事故発生>

利根川に掛かる旧上武大橋は埼玉県深谷市と群馬県伊勢崎市を繋ぐ橋で、自動車専用と歩行者専用の2本の橋からなる。新しい上武大橋が完成したことで、旧上武大橋歩道橋の解体作業が平成30年の夏場から始まっていた。

平成30年12月15日(土)の10時38分頃、右岸河川敷で解体作業のために土砂運搬作業をしていた重ダンプ(積載量32t)が解体中の橋の下を通過しようとしたところ、橋桁に衝突。その衝撃で橋桁が重ダンプの運転席上に落下し、運転席にいた58歳の男性が潰れた車内に閉じ込められた。目撃者はなく、「ドーン」という衝突音で作業関係者は気がついた。

10:44 <覚知>

事故を知った現場作業員からの119番通報が入電。

10:48 <出場指令>
10:49 <出場>

直近の深谷消防署より指揮隊(3名)および特別救助隊(4名)、消防隊(2名)、救急隊(3名)が出場。

10:57 <現場到着>

現場は深谷消防署の北西約4.1㎞にある利根川右岸河川敷で、4隊がほぼ同時に現場到着した。

11:00 <現場指揮本部設置>

利根川右岸上武大橋下流側に指揮本部を設置。現場の惨状を目の当たりにした伊藤指揮隊長は、その時の印象を「現場を見てあ然とした。指令センターから伝えられる通報内容だけでは具体的な状況がすぐには思い浮かばなかった。類似災害の経験もなく、この事故は規模も難しさも、署始まって以来だと直感した」という。

橋桁がダンプカーの運転席を直撃している様子。
橋桁がダンプカーの運転席を直撃している様子。
11:00 <状況確認>

先着の指揮隊は、現場指揮本部を設置すると同時に、現状把握のために周囲を一周し、重ダンプの状況、橋桁の状況などを全方向から確認。事故の状況から、重ダンプは荷台を上げたまま通過したことで橋桁に衝突し、その衝撃で外れた橋桁が重ダンプの運転席に落下したものと思われたが、目撃者がいないので正確な原因は不明。落下した橋桁は、一方が重ダンプで支えられ、反対側は橋脚に僅かにかかった不安定な状態。

二次災害の危険性が懸念される状況のため、活動隊員には、安全が確保されるまでは近づかないように指示を出す。要救助者に接触はできないが、重ダンプ前方から目視で左手のみが確認できた。隊員が要救助者に向かって呼びかけるも、反応はなかった。

11:05 <工事関係者・警察と協議>

警察と工事関係者を交えて情報交換を行い、落下した橋桁の長さ(約50m)と幅(約3m)、重量(52t)、重ダンプの大きさ(積載量32t)などの情報を収集した。

不安定な橋桁の固定を図るためには100tクレーンが必要だが、工事関係者によると、100tクレーンを手配して現場に到着するまでには24時間以上かかるという。しかも組み立て時間を考慮すると救助開始まで2〜3日を要する。

この頃、上空には報道ヘリコプター4機が飛来し、報道が始まった。

これらの現場状況を指揮隊員が指令センターに報告すると、幹部職員にも伝えられた。自宅でその連絡を受けた田中消防長は、すぐに本部併設の消防署に駆けつけ、現場からの画像伝送装置モニターで状況を確認した後、市長と副市長に「この事故の救出活動は長期化する」と伝えた。

まもなく昼のテレビニュースで事故の模様が中継され、現場だけでなく、消防署も騒然とした雰囲気が強まった。

田中消防長は、現場の指揮隊長に連絡を取り、消防署長、消防課長、警防課長の四者で今後の活動について話し合いを持った。そのなかで、消防長、消防署長、警防課長は現場で対応する指揮隊長に対し「救助の最後の砦が消防なんだ! 知恵を絞って方法を探し出し、日没までになんとか救出しよう」と激励した。この日の日没は16‌時30‌分。日が暮れてしまうと気温も急激に下がり、安全管理にも支障をきたしてしまう。

幹部の激励に背中を押された指揮隊長は決断した。まず橋の落下を防止するため、100tクレーンの要請と並行し、現場にある同型の重ダンプ2台を橋桁の下に移動させ、さらに大型・中型の重機(ショベルカー)のバケット部分で橋桁両側の安定を図り、活動の安全性を確保したうえで救助隊がアプローチするという方法を立案した(図1参照)。商売道具である重機や重ダンプがこれ以上損傷することを避けたい工事関係者は、100tクレーンの到着を待ってからの救助開始を望んでいたが、深谷消防署の指揮隊長は、一刻も早く救出したいという消防の熱い思いを伝え、及び腰の工事関係者を説得した。

その間、救助隊は事故車両と同型の重ダンプをチェックし、運転席は車両の左側にあること、キャビン内のレイアウト、鋼材の厚さなどを入念に調べ上げた。橋桁は、重ダンプによって落下を押しとどめられている不安定な状態であったため、誤って破壊してしまうと橋桁がさらに落下する恐れもある。最小限の破壊で、最大限の効果が得られる方法を探った。

指揮隊は「要救助者早期救出」「二次災害の防止」「隊員の安全管理」という3つの活動方針を徹底して行動を開始した。

重ダンプ2台は、荷台部分で、落下した橋桁を下から支える形で配置、大型重機と中型重機はバケットで橋桁を押さえ落下防止を図った。右側前輪に亀裂を確認したあとは鋼材をブロック状に積み上げ、補強を実施した。

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