トンネルの奥には爆発の危険が!<br>活動は可燃性ガスとの闘いから始まった<br>【国道253号八箇峠トンネル爆発事故】

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トンネルの奥には爆発の危険が!
活動は可燃性ガスとの闘いから始まった
【国道253号八箇峠トンネル爆発事故】

工事中のトンネル内で爆発事故発生。トンネル深部に要救助者4名。
しかし、可燃性ガスが進入を阻む。再び起こるかもしれない大爆発。
進んでは戻る、を繰り返した結果、ついにトンネル内送風作戦が開始された。

文・写真(顔写真)◎木下慎次 
写真◎南魚沼市消防本部、国土交通省
Jレスキュー2012年9月号掲載記事

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大爆発事故が発生したのは、誰も行ったことがない山の中だった

5月24日10時30分、第一報入電。

「──欠之上(かけのうえ)の工事現場で爆発がありました。トンネル内でケガ人などがいるか、細かい事はわかりません」

通報者は建設会社の社員。同僚が八箇峠トンネルの工事現場で作業中に爆発事故に遭い、通報者に電話連絡。それを受けて119番通報をしたという。事故発生は10時25分。

南魚沼市消防本部の通信指令係は爆発事故として火災出動、さらに傷病者多数発生を予測し、集団救急事故救護計画出動という形で部隊を選別し、出場指令を流した。ちょうどこの日は本部2階会議室で係長・小隊長以上会議(23名)が行われていた。指令が入ったのはその最中。出場前に情報は周知徹底され、携行装備としてエアテントが必要だ、それをどの隊が搬送すれば早いか、といった打ち合わせがすぐに始められ、初動対応はスムーズに行われた。

一方、湯沢消防署には非番者を含む救助隊員らが救助大会に向けた訓練のために集結していた。これにより、活動隊員も確保することができ、通常であれば招集後に第2陣として投入される車両についても初期の段階で投入することができた。

本部・署に非番・公休者が揃っていた事。これが迅速な初動だけでなく、混乱なく活動に入ることを可能にした。

覚知から6分後の10時36分、南魚沼市消防本部から指揮隊1隊、指揮支援1隊、消防隊1隊、救助隊3隊、救急隊5隊、後方支援1隊、計47名が出場。迅速な初動を切ることができたが、唯一にして最大の懸案事項があった。現場の位置特定ができなかったのだ。

トンネル坑口付近には工事用資材が散乱。飛ばされた自動車も原型を留めていない。
地図にない現場

現場は山間部で建設中のトンネル工事現場。十日町市から南魚沼市へ抜ける国道253号線の事前通行規制区間の解消と、関越自動車道六日町インターチェンジへのアクセス強化を目的とする道路で、八箇峠道路として整備が進められている。総延長9.7kmのうち、八箇峠トンネルは全長2840mを占め、十日町側と南魚沼側双方から掘り進めている。事故があったのはこのうちの南魚沼工区。建設中の道路であるため、地図には位置が載っていない。おおよその場所はわかるものの、そこへ至る進入路の入り口がわからない。現場指揮隊長として出場した同本部警防課長で市消防署署長の高橋正男消防司令長は、早速通報者にコールバックした。

「私が案内します」

通報者が現場までの誘導を買って出てくれた。ランデブーポイントを調整し、通報者と合流。そこから現場へ向かい再出場することにした。

一般道から現場へ向かう工事現場進入路に入ってしばらく進むと、河川改修の現場が現れる。ここは平成23年7月新潟・福島豪雨水害の影響で土砂崩れなどが起こった場所。災害復旧工事が行われているところで、作業道路脇には土嚢が積み上げられているのが見えた。災害の爪あとが残っているのだ。

だが、高橋警防課長は「それだけではないな」という印象を持った。現場の荒れ方が、どうみても水害によるものではないのだ。

高橋の予感は的中した。さらに前進すると、作業道路上に工事用資機材や何かの破片と思われる物体が散乱していた。爆風により飛散したものだ。前進するにも、ある程度の障害物除去が必要。また、先に進んでしまいUターンできない状況(飛散物により足の踏み場がない状況も考えられる)であれば、出動車両が擱坐してしまうことになる。高橋は全隊に一旦待機を下命し、自らが乗る指揮車と案内人の工事用車両のみで前進することにした。

11時17分、トンネルに現着

車両待機位置に出場隊を残し、案内人と前進を続ける高橋ら指揮隊。道路上の障害物を路肩に除去しながら前進し、大きなカーブを抜けると、目の前に横たわる3名の負傷者を確認した。直ちに車両を飛び出して接触。声かけを行う。幸いにも3名とも意識はあった。観察したところ致命的な負傷もなさそうだ。高橋は周囲を見渡し、車両のUターンが可能な空地があることを確認すると、待機する救急隊3隊に前進を指示。負傷者の処置と搬送を下命した。救急隊が到着するまでの間に、詳細な要救助者情報などの聴取を行う。

「爆発現場はトンネル内部。トンネル内で作業していた4名が行方不明」

やはりトンネル内に要救助者がいるようだ。今いる第一現場はトンネル坑口がある場所より一段低くなっている。見上げたところで、第二現場であるトンネルは目視できない。救急隊に負傷者を託すと、高橋警防課長ら指揮隊と案内人はさらに前進した。

トンネル坑口付近はさらに悲惨な様相を呈していた。工事用資材が飛ばされており、原型を留めない自動車などが横たわっていた。爆発の凄まじさを感じた。

だが、トンネル坑口付近からは煙や炎は出ていない。ガスの臭気もなく、物が焦げたニオイすらしなかった。周辺に人の気配もない。現場は異様なまでの静けさで、時折、鳥の鳴き声だけが響きわたる。

全長約3kmのうち、工事は現状で1400mの距離まで掘り進められている。高橋は直感した。「要救助者がいるのはトンネルのかなり先なのだろうな」

トンネル坑口付近には活動空地もあり、車両を限定すれば接近進入や転回しての退出も可能。これらの状況を踏まえ、待機中の部隊に指示を与えた。

「トンネル内部に要救助者4名ある模様。なお、トンネル内部の環境等は不明で、二次災害の恐れあり。救助隊はトンネル内部へ進入し、環境測定と並行して人命検索を実施せよ。救急隊は現場救護所の設置運営にあたれ。消防隊は警戒筒先配備せよ」

同消防本部消防長の西野辰夫消防監は、指揮隊からの情報により、掘削工事には火薬類は使っておらず、トンネル内で何らかのガスが引火した可能性が高く、こうした状況を専門とする特殊災害対応部隊の現場投入が必須と考えた。そこで12時01分、県内の特別高度救助隊として、新潟市消防局のSART(サート:Special Advanced Rescue Team)に応援要請をかけるとともに、中越地区の代表本部である長岡市消防本部へも特別救助隊の応援要請を行った。また、第一現場の3名と、トンネル内の要救助者4名に対応するため、救急隊も相当数現場に確保しなければならない。こうした状況を踏まえ、指令室に対し近隣本部からの救急部隊応援の要請を指示した。近隣本部への救急部隊応援要請は、現場に全救急隊が出場してしまうことを鑑み、管内の救急需要に対応してもらうための措置である。(結果として応援隊は管内での救急要請に6件出場する結果になった)

【ミッション】送風による環境改善

いつまた大爆発するかもしれないトンネルの奥へ奥へと進む救助隊

各隊がトンネル坑口に集結するのは、第一現場の負傷者の搬送を待たねばならなかった。唯一の進入路上で救急隊が活動していたからだ。

その間に各隊は活動準備を進めていたが、警戒筒先の配備において問題が生じた。まず、坑口周辺に水利がない。そこで考えられるのは水槽車だが、9tのタンクを背負った水槽車は大きすぎて、狭い山道を坑口付近まで接近進入することが困難だった。そこで、接近可能な限界サイズである水槽付消防ポンプ自動車を坑口付近に部署。万一の場合はそのタンク水で一次対応し、その間に待機場所から9t水槽車を前進させて連携を図ることにした。

同様に、救助隊も待機場所で準備に追われていた。救助工作車の接近が困難であるため、まずは待機場所において必要資機材を水槽付消防ポンプ自動車などに載せ替えた。載せきれない装備については、徒手により搬送することにした。

救急隊が搬送を開始したところで、待機していた部隊が前進する。この段階で第一現場での負傷者接触から1時間が経過している。このような特異な災害では、じっくりと足元を固めつつ、計画的に活動を進めなければ事故を招く恐れがある。逸る気持ちを抑えつつ、入念な準備を行って本格活動に入った。

南魚沼側から十日市方向に向かい上りになっているのがわかる。
トンネル最深部で発生したガスが自然に坑口から排出されにくい。
トンネル内状況図。
「国道253号八箇峠トンネル爆発事故」トンネル坑口付近配置図。
現場に至る進入路の状況。写真奥の人物が歩いている部分が進入路。幅員が狭く、大きな車両は進入が難しい状況だった。
活動初期の坑口付近の状況。あたり一面に工事資材などが散乱している。 
到着した長岡消防部隊とともに2回目の進入を試みる。内部状況の説明、案内のため、工事関係者1名(写真右端)が同行した。
トンネル内部で最大の障害物となった型枠(セントル)。激しく変形し、隊員や風管の前進を拒んでいた。
事故前に撮られた型枠の状況。形状はトンネル断面と同様で、全長も10m近くある巨大な装置。これが爆風により動かされてしまっていた。
トンネル内の状況。写真左奥が坑口側。トンネル内に停めてあった工事車両が爆風により破壊しつくされ、無残に横たわる。
設置までの時間短縮を図るため、送風機はまず、トンネル反対側工事現場(十日町工区)からの持ち込まれた。
送風により坑口上部からは粉塵やガスが押し出されてくる。
現場には国土交通省の照明電源車2台が投入され、現場を照らし出す。
トンネルの中では戦慄するほど恐ろしい光景が待っていた
風管は瓦礫を避けるように最深部へと延伸していった。

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