トンネルの奥には爆発の危険が!<br>活動は可燃性ガスとの闘いから始まった<br>【国道253号八箇峠トンネル爆発事故】

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トンネルの奥には爆発の危険が!
活動は可燃性ガスとの闘いから始まった
【国道253号八箇峠トンネル爆発事故】

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ファーストアタック

中に残されている作業員は4名で、「トンネル奥で作業をしていた」という情報も得られた。また、工事関係者によれば二次災害につながる発火源はないという。これらの情報に基づき、トンネル内部の環境調査と行方不明者の人命検索を行うべく、内部へ進入することになった。

12時14分、山崎浩司消防司令補率いる南魚沼市消防署第3小隊救助分隊1隊5名の隊員らが防火衣に身を包み、ガス検知器を手にしてトンネル内に足を踏み入れた。工事関係者1名も同行している。空気呼吸器を背負い、ガス検知器を手にして進んでいく。いつもの訓練通りの手順だが、この現場は進入距離が長い。緊急時の退出路もない。

「慎重に行くぞ」

山崎救助分隊長が皆に声をかける。トンネル内は爆風で飛ばされた工事用資材、トラックが散乱し、進路を塞いでいる。これらを乗り越えながら用心深く進入する。瓦礫の中に要救助者が埋まっている可能性も考えられたが、まずは見える範囲の検索のみとし、進入することを優先した。途中、無線が届かなくなったため、2名を無線中継員として残置。更に奥を目指して進んだ。

770m→930m→970m

坑口から550mほど進んだところで、トンネル内部で最大の障害となった型枠(セントル)に遭遇する。掘削した後に内壁部分のコンクリートを打設するためのアーチ状の型枠で、トンネル断面と同等の形状、長さが約10mもある。本来はレールに載せられた状態でコンクリート打設が完了している930m地点に置かれていたはずだが、爆風によりレールの上を滑り、この位置まで奥から吹き飛ばされてきていたのだ。型枠自体も爆発の威力で変形し、トンネル内壁とのわずかな隙間を抜けなければ先へ進むことができない。隊員らはその隙間をすり抜け、歩みを進めた。

この段階では、坑口から600m程度までは素面で進入することができた。このあたりから、いよいよ可燃性ガス濃度に反応が出始める。しかし、まだ行けるレベルだ。山崎救助分隊長は進入継続を隊員に伝え、面体を着装してさらに前進した。程なくして状況が一変する。視界が1m程度となり、一酸化炭素濃度や硫化水素濃度にも反応が出た。これ以上の進入は無理と判断せざるを得ず、退出を決断した。

13時18分、脱出。64分におよぶ環境測定・検索活動で770mまで進むことができた。この活動で得られた情報により、内部の環境改善が必須と判断された。そこで、トンネル工事の受注者であるS工業に送風機2台の設置を依頼した。また、県内相互応援協定に基づく応援部隊も順次現場に到着。

2回目のアタックは14時27分から南魚沼市消防本部1隊9名と長岡市消防本部1隊4名が連携して実施し、930mの地点まで前進。16時10分開始の3回目のアタックは南魚沼市消防本部1隊7名と新潟市消防局1隊5名が連携し、970m地点まで前進することができた。視界は1m程度しかなく、酸素濃度13.7%、可燃性ガス43%LEL、硫化水素濃度28.5ppm、一酸化炭素濃度にいたっては測定限界以上という過酷な状況であることが判明。これまでは救出優先で活動を進めていたが、この状況では先に進むこともできない。そこで検索活動を中止し、関係機関全体による第1回方針会議を開催することになった。ここで同消防本部次長の田村良一消防司令長が到着し指揮を執る。

市役所本庁舎に設置された国道253号八箇峠トンネル内爆発事故調整本部。南魚沼市、南魚沼市消防本部、南魚沼警察署、新潟県、国土交通省長岡国道事務所で構成され、現地情報を一元化した。
現場には国土交通省の現地対策本部車が投入され、関係機関が一堂に会しての方針会議が行われた。
進入部隊からの情報は作戦卓上に文字として記入するのはもちろん、応援部隊を含めた活動隊員全員が状況をリアルにイメージする必要がある。そこで指揮隊の町田副士長により、現場状況を示したイラストも作成された。
風管を延伸して送風開始

17時57分から消防、工事受注者、国土交通省、警察など関係機関が一堂に会しての第1回方針会議が実施される。

環境測定の結果、内部が危険な状況であることが確認され、さらに、当初600m地点まで素面で進入できたのだが、この段階になると坑口付近までガス濃度が上昇する状態になっていた。環境はますます悪化している。

会議では、送風機によりトンネル内の環境改善を行い、検索活動はその後に行う。まずは、そのための風管延伸作業を行う、という方針がたてられた。

送風機に先立ち、18時15分、トンネル工事用に設置されていたエアコンプレッサーによる送風を開始する。しかし、送風鋼管が50m付近で切断されてしまっており、効果を期待できない状況だった。

「コンプレッサーによる送風から送風機による送風に切り替える。風管の延伸作業を実施する」

21時43分に活動方針を変更。トンネル深部までの送風を可能にするため、送風機設置を急ぐ。また、田村次長は救助活動の実施に際し、可燃性ガスや有毒ガスの検知方法、留意事項、対処方法等のアドバイスを得られるよう、南魚沼市消防本部から総務省消防庁に対して専門家の派遣を要請。これにより、消防大学校研究センターの職員2名と総務省消防庁の職員2名が現場に急行した。

送風機による送風を行うためには、トンネルの中に新たに風管を延伸していく必要がある。この作業がスタートしたのが、夜も更けた22時13分。風管は直径1.5m×長さ10m×厚さ0.41mm、重さは26.4kgある。これを担いでトンネル内に入り、深部まで手作業で延ばして行くのだ。活動が長時間に及ぶのは必至で、多くの人員が必要となる。そこで、1時15分に小千谷市消防本部と十日町地域消防本部に救助隊の応援要請を行ったのを皮切りに、以後、県内本部に対し風管延伸作業要員の応援要請が適宜行われることになる。

日付が変わり25日3時54分の段階で、トンネル奥に向かって右手に這わせていくAラインは400m延伸。そして左手のBラインは30m延伸できた。6時10分に2台目の送風機が到着すると、2台2ライン体制での送風が行われた。8時20分に行われたトンネル内環境測定では、坑口付近の一酸化炭素濃度は測定限界を上回った。これは送風の効果で奥に充満するガスが坑口まで押し出されてきているためだ。970mから先を内部検索するには、少しずつ延伸し、少しずつ環境改善していくしかなかった。

活動のカギを握ったボンベ

今回の活動で最重要装備となったのが呼吸保護用器具である空気呼吸器だ。南魚沼市消防本部では従来型の150型ボンベと、新たに導入を進めている300型ボンベが混在している。

進入隊員が持つ空気量が異なることは、戦略を難しくする。混在する場合は空気量の少ない150型に合わせる必要があり、せっかくの300型の本領が発揮できない。そこで、最初は空気呼吸器に装着されたボンベをそのまま使用し、使用後にボンベを順次充填。充填後は所属に関係なくボンベを一元管理し、ボンベ交換時に最深部へ進入する隊員らには優先して300型を、途中で無線中継などを行う隊員には150型を配備する方法をとった。

ボンベの消費量はとにかく激しく、使用したボンベを回収して本部に運び、そこで空気充填を実施。復活したボンベを再び現場に運ぶというローテーションで対応した。25日の午前には近隣の十日町地域消防本部が空気充填機とありったけの予備ボンベ、そして、充填作業に張り付く人員を投入してくれた。さらに、魚沼市消防本部も予備ボンベを提供してくれた。

「ボンベの提供はこちらから要請したわけでなく、状況を察して先方から協力を申し出てくれたもの。実にありがたい支援だった。以降、2台の充填機をフル稼働させ、活動に臨んだ」と高橋警防課長。

ちなみに、こういった災害では、酸素呼吸器やエアラインマスクの活用がイメージされるが、後者は実際にはそれほど普及しているものではなく南魚沼市消防本部にも配備されていない。それに、そもそも1400mもの長距離にホースラインが対応していない。また、酸素呼吸器については、取り扱いや活動について熟知していないと活用が難しいという面がある。そこで、この現場では、汎用性があり、装備数も充実し、充填も即応できる空気呼吸器をメインに活動が進められたのである。

活動経緯

2012.5.24 10時25分頃 発災

10時30分 南魚沼市消防本部覚知
10時36分 南魚沼市消防本部出動
10時53分 通報者と合流し、誘導を受け現場へ再出場
11時00分 第一現場に到着し、負傷者3名と接触
11時02分 病院医師搬送出動
11時17分 第二現場(トンネル坑口前)到着
11時45分 近隣消防応援要請(魚沼市、十日町地域の救急隊)
12時01分 県応隊要請1(新潟市、長岡市の高度、特別高度救助隊)
13時23分 南魚沼市役所に事故調整本部設置
12時14分~13時18分 第1回トンネル内環境測定及び検索(770m)
14時27分~15時20分 第2回トンネル内環境測定及び検索(930m)
14時30分 送風機設置依頼
16時10分~17時20分 第3回トンネル内環境測定及び検索(970m)
17時57分 第1回方針会議議
18時40分 県立十日町病院DMAT出発 
20時36分 消防研究センター職員派遣要請 
18時15分~19時48分 エアコンプレッサーによる送風開始 
19時43分 第4回トンネル内環境測定
22時13分~03時54分 風管延伸作業 

2012.5.25

1時15分 県応隊要請(小千谷市、十日町地域の救助隊)
6時40分 長岡赤十字病院DMAT5名出発 
4時00分~9時28分 送風 
7時17分 県応隊要請(三条市、柏崎市、燕・弥彦の救助隊)
8時20分 トンネル内環境測定
8時50分 第2回方針会議
11時17分 十日町地域消防本部より空気ボンベ充填機貸出
11時35分 県応隊要請(上越地域、新発田地域の救助隊)
12時42分 トンネル内環境測定

2012.5.26

1時44分 風管ねじれ修正作業
1時45分〜9時00分 送風
7時19分 トンネル内環境測定
8時20分 県応隊要請(魚沼市、加茂地域、見附市、阿賀野市の救助隊)
9時28分〜1時45分 風管延伸作業
9時00分 第3回方針会議
10時20分〜11時37分 風管延伸作業
11時26分〜15時02分 送風
14時15分 トンネル内環境測定
13時26分〜14時29分 環境測定開始
13時58分〜15時02分 トンネル内検索活動
16時04分〜16時59分 型枠切羽側検索開始
16時07分〜17時02分 風管延伸固定作業
17時50分〜 風管延伸作業
17時50分〜18時30分 環境測定作業
21時05分〜21時52分 Bライン風管接続作業
21時05分〜23時20分 Aライン風管延伸作業
21時52分 Bライン500m延伸完了 送風開始
23時20分 Aライン670m延伸完了 送風開始
21時05分〜23時10分 環境測定作業
23時31分〜00時15分 検索活動開始

2012.5.27

0時15分 要救助者4名発見
2時35分 要救助者4名の受け入れ病院の手配
4時27分 医師をトリアージテントに搬送する
4時06分〜5時59分 救出隊決定 活動開始
4時36分〜5時59分 搬送隊 活動開始
5時59分 要救助者4名救出完了 進入隊全員退出完了 
6時10分 各隊活動終了申告
6時35分 新潟県広域消防相互応援協定に基づく応援隊解散

2基目の送風機が到着。これにより迅速な環境改善を目指した。

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