消防のためのダーティボム入門<br>―その歴史、検知から除染まで―<br>後編

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消防のためのダーティボム入門
―その歴史、検知から除染まで―
後編

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放射性物質の除染

除染プロセスは、放射線にばく露されただけの人や材料と、実際に汚染された人や材料を評価することから始めることある。また、この2つを明確に区別することが重要である。

ばく露とは、被災者の周りに何らかの放射性物質があったことだ。受けた線量は上がったかもしれないが、汚染されたわけではない。汚染とは、被災者の衣服や皮膚上または体内に放射性物質があることを含んでいる。ばく露の可能性があるが、汚染されていない人にとってはその線源から離れ、何らかの症状があれば、それを治療するだけで十分である。

汚染されている被災者には、ドライデカンまたはハイブリッドデカンを推奨する。まず、影響を受けた衣服をすべて脱ぎ、放射性粉じんが付着していることが疑われる場合は、脱ぐ前に衣服を湿らせることを考慮する。次に、液体、エアロゾル、固体を問わず、皮膚への沈着の恐れがある場合は、そこに圧力をかけないように注意しながら、吸収材で患部をぬぐいとる。さらに除染が必要と思われる場合は、穏やかなシャワーを浴びることを考える。

なお、ここでハイブリッドデカンと言っているのは水や除染剤の使用、すなわちウェットデカンとファイバーテクトのような除染グローブを組み合わせた方法である。水や除染剤の使用は、大量の排水の処理の問題を生むが、この方式ではそれは大幅に軽減される。

除染の基準をどう考えるべきか

RDDで被災した住民の除染を考える時には、当然ながらどの程度汚染した人を除染するのかという一定の基準値が必要になる。セシウム等で一般市民が汚染している時に、どんな除染基準を設けるかは、除染所要とも直結するので簡単な話ではない。それが実際に起こったのが2001年3月の福島第一原発事故であった。

住民のスクリーニングは当初の基準であった6000cpmから、さまざまの紆余曲折と混乱を経て、IAEAの基準である10万cpmにまで引き上げられた。そのIAEAの規準は、もともとRDDを想定したものである。3月20日に福島現地対策本部の全体会議資料として、原子力委員会から突然、一般住民の除染基準を1万cpmから1μSv/h(10万cpm)に引き上げるという変更案が出てきた。ちなみに、IAEAのマニュアルの基準は、10万cpmと記載されているわけではない。体表面から10cmのところで1μSv/h以下とされているだけである(IAEA EPR-First Responder 2006)。さらに、Annex(P.74)において、β/γ汚染を専門家が計測する時には、1万Bq/㎠となっている。一方で原子力委員会のペーパーでは、「1μSv/hにレベルを変更するので、これにより10万cpmとなります」としか書いてないために、生半可に知識のある者にとっては、なぜ10万cpmなのか、さっぱり理解できない。注釈として、10万cpmという値は、TGS-136型GMサーベイ(5cm口径)で計測した時の値とあった。

やや、専門的になってしまうが、放射線医学研究所の説明は以下のとおりであった。

●アロカTSG-146で131Iからのβ線(606keV)の検出効率は24%(線源距離5mm)
●有感面積は(5cm/2)2π=19.63㎠、また10万cpmは1/60で1667cps
●したがって同じサーベイ(TSG-146)で10万cpmを示す時の表面汚染密度は(1667÷0.24)÷19.63=354Bq/㎠
●354Bq/㎠という値は、前述のAnnexの1万Bq/㎠/よりも十分に低い値なのでOK

この説明でいくと、基準を一気に100万cpmまで引き上げてもよいのではないかと思える。この10万cpmという値が、現場での実オペレーションを考慮した“実効性”に重さを置いたかなりアバウトな値であると、ご理解いただけると思う。

このように、RDDの事態においても、消防にとって一般市民のスクリーニングを実施して、誰を除染するかという段階になると、基準の設定は問題になるだろう。準備段階で、明確にしておきたいものである。

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