日本になぜRSDLが必要なのか

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日本になぜRSDLが必要なのか

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第四世代の化学兵器(FGA)とRSDL

ロシアが2018年に英国ソールズベリーにおいてノビチョクを使用し、元ロシア二重スパイの親子の暗殺を企てて以来、ノビチョクすなわち第4世代神経剤(FGA)への対処が我が国を含む西側諸国の喫緊の課題となった。

これに関して、2021年の東京オリンピックの開催前に厚生労働省の研究チームから治療指針に関する文書が出されている。小井戸雄一先生と水谷太郎先生の労作であり、米国国立衛生研究所(NIH)の文書の抄訳であるという注釈が付けられている。すなわち、この文書は米国のDepartment of Health & Human Servicesがウェブサイトで公開している情報『Fourth generation agent : Medical management guidelines』の抄訳である。

中身をみてみると、RSDLに関連する記述が多くみられる。例えば、同文書の4ページ目上段の病院前のケアの記述において次のように記述されている。

FGAは、対応者が、患者、その衣類や所持品、汚染された環境表面に接触した場合、深刻な2次曝露のリスクを生じる。同様に重要なことは、患者の除染が完了するまでFGAの皮膚沈着と吸収が続くので、患者除染が医療的介入と位置づけられことである。当事者に異常が生じていなくても、FGAは皮膚の表面や内部に存在する限り医学的リスクである。

また、明確にRSDLを推奨することが示されていることは注目に値する。これはNIHの公式見解である。同文書の5ページ目上段には、次の記述がある。

Reactive Skin Decontamination Lotion(RSDL)が使用可能であれば、現場での除染手段として推奨される。

その他に、除染関連で注目されるところとしては、Primary Response Incident Scene Management(PRISM)への言及と消防隊員への汚染水処理への免責がある。

ペーパータオル、乾いたワイプや布などで皮膚から吸い取ることも有効な除染手段である。Primary Response Incident Scene Management(PRISM)ガイダンスによれば、汚染された皮膚エリアは、10秒間吸い取った後、10秒間こすり取ることが推奨される。この乾的除染手順は患者自身で行うことも可能であり、脱衣とともに、極力早期に実施すべきである。脱衣と上記の乾的な吸い取りは、汚染化学物質を相当量除去し得る。

米国環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)は、初期対応者が人命救助と健康保護を優先することを容認する旨の声明を2000年に発表した。切迫する脅威が落ち着いたなら、初期対応者は、除染廃液を含む汚染物を封じ込め、環境汚染を軽減するよう、あらゆる手段を講じなければならない。

なお、ここでRSDLの推奨がこれだけはっきりと記述された背景が気になるところである。おそらく、最初の症例である元ロシア二重スパイのセルゲイ・スクリパリ氏とその娘ユリアさんを治療する過程で、英国のDefence Science and Technology Laboratory(DSTL)の医師が石鹸水での除染に効果がなくコリンエステラーゼ値が正常に戻らず、RSDLで除染して初めて戻ったという事実があるものと思われる。ノビチョクは皮膚の下に潜っていた。それを除染できたのは、その時点ではRSDLだけだったのである。

ちなみに、同文書の6ページ目上段にある治療の部分にも除染関連の記述がある。

除染(D)は、体外(皮膚)投与が体内投与に移行することを最小限に抑えるための医学的介入である。支持療法同様に重要であり、薬物療法は救命的意義がある。除染は可及的速やかに実施すべきであるが、FGAの場合、曝露数時間ないし数日後であっても一定の有効性がある。

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