日本になぜRSDLが必要なのか

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日本になぜRSDLが必要なのか

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日本への導入の障害

厚生労働省にRSDLの話を持っていった場合、使用が不可能だという理由を10以上列挙されそうな気がする。あるいは、必要な理由のペーパーを厚さ15cmくらいのファイルにして持って行っても納得してもらえないかもしれない。

考えてみれば、東京オリンピック・パラリンピックという、ある種の“神風”があったからこそ、神経剤自動注射器の導入と医師以外でも打てるという奇跡のような改革がなされたのかもしれない。

面白いのは、新型コロナウイルスの感染拡大の最中で、mRNAワクチンのような外圧や内圧があることが想像できる状況では、普段は腰の重い厚労省もすばやく動くことである。正面からRSDLの安全審査を始めることになれば、10年はすぐに経つだろう。みんなで知恵を出すしかないと思われる。

もちろん、筆者も含めて関係者の説明の努力と忍耐が足りなかった面は素直に反省したいと思う。その上で、厚生労働省の中に検討チームを立ち上げられないものかと思う。

おわりに

日本にRSDLが必要な理由は、以下のようなものが挙げられる。

  • ノビチョクやVXが使われた場合に、皮膚の下に潜った化学剤を除染できるのは当面これしかないこと
  • 消防や陸上自衛隊の隊員が不用意にGDやTGDで汚染された時にエージングが2分であることを考慮すれば、各人が携行したRSDLを取り出して即時中和して除染しない限り助からないこと
  • 他の除染手段、特にFEと比べて再エアロゾル化や再蒸発の心配がなく使えること

石鹸水や次亜塩素酸ナトリウムでは効果が薄い。「もしかしたら、GDが日本で使われる可能性があるのか?」とお考えだろうか? ロシアが旧ソ連時代に持っていたのは、VXやVRではなく、実はその大半がTGDだったという証言もある。また、ロシアのプーチン大統領は、保有した化学兵器を全廃したと数年前に高らかに宣言したが、その後にそれが嘘だったことは明白であろう。

厚生労働省のハードルは高いかもしれない。しかし、神経剤用自動注射器でやれたことが、RSDLでやれないとは思えない。FDAがこれを承認したのは2003年のことなのである。そこから、筆者を含めた関係者は一体何をしていたのか? と問われると耳が痛い。いつの間にか、G7やアジアのシンガポール、韓国、台湾等の国々の中で、RSDLを使ってない国は日本だけになってしまっていた。閉鎖的な厚生労働省の姿勢だけを責めることはできないであろう。

Jレスキュー本誌の連載「世界のCBRNe 最新トピックス」の著者である浜田昌彦氏の記事をJレスキューWebでも公開。今回は、日本にだけない拭い取り除染剤「RSDL(反応性皮膚除染ローション)」の必要性について、本誌に掲載した記事をJレスキューWebに再掲する。
Jレスキュー2023年11月号掲載記事 文◎浜田昌彦 写真◎Emergent BioSolutions社提供

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