鎮火まで約36時間<br>2次爆発の危険下で消防隊が活動した<br>【岩国・石油コンビナート爆発火災】

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鎮火まで約36時間
2次爆発の危険下で消防隊が活動した
【岩国・石油コンビナート爆発火災】

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プラントは熱で複雑に変形。炎が燻る内部に水が届かない!

懸命な放水を続けるも

そうこうしているうちに時間は経過し、夜が明け始めた。明るくなってきて始めて、ようやく現場がどのような状況なのかが判明した。それまでは放熱する温度が高すぎて接近することすらできず、安全な距離をとっての活動だった。各隊が泡放射やターレットによる冷却放水を実施したが、火勢は衰える気配を見せなかった。プラントは各種機器と鉄骨などで構成された構造だが、これらが熱により変形し、複雑に折り重なって座屈していた。その中に残液があって、内部で燻燃を続けているという。奥まで放水が届かないのだ。

「放水による希釈もままならない。気化したガスが陽炎のようにゆらめきながら立ち上がっていくのが見えた」(黒元)

部隊指揮を執るのも容易ではなかった。3カ所で発生している火災はすでに適切な部隊配置で活動できていたため、指揮権移譲後も大幅な活動方針の変更は行わなかったが、状況変化に対応できるよう、現場の状況を把握しておく必要がある。それぞれの施設関係者から情報をとらねば、構造はもちろん、どのような危険物があるかといったこともわからない。また、3カ所それぞれの責任者に数十名のスタッフがついており、ほぼ全員から話を聞かねば全容が見えないという複雑さもあった。企業側指揮隊のサポートを受けながら、署長と副署長の2名で情報をかき集め、現場対策本部の意見もふまえて判断を下していった。

爆発で現場指揮本部が凍りついた

消火活動中の2回目の爆発

8時05分、レゾルシンプラントにおいて2回目の爆発が発生した。爆発した現場周辺では岩国地区消防組合消防本部の部隊9名がはしご車による俯瞰放水を実施していた。

「はしご先端を巨大なファイヤーボールがかすめたように見えた。退避命令を出す間もなく起こった爆発。消防人生三十数年の中で、一番怖い瞬間だった」と現場指揮本部で指揮を執っていた黒元署長が爆発の瞬間を振り返る。

数々の修羅場をくぐりぬけてきた黒元署長にとって、自らが直接危険な目に遭うことには特に怖さなど感じないが、自分の部下となれば話は別だった。

工場側要員を含めて数十人が詰める現場指揮本部が一瞬にして静まり返った。状況確認のため、副署長が現場に走った。幸いにも爆発は真上に抜けたため、隊員らに影響はなかったが、全員無事との無線連絡が入るまで、生きた心地がしなかった。

この爆発を受け、初めて活動方針の変更が行われた。

「危険回避のため、現在の位置から退避し、ターレットによる無人冷却放水に変更せよ」とレゾルシンプラント付近で部署活動していた3隊に対し一時放水中断を指示。部署位置の変更とターレットによる冷却放水への切り替えを下命した。

このような火災では、消防力の支配下で燃焼物を燃やしつくす方が安全という場合がある。たとえば消火により有毒な可燃性ガスが噴出拡散し、周辺被害を拡大してしまう危険もあるのだ。泡消火薬剤による攻めの消火を試みながらも、時に冷却放水に切り替え、周辺施設に熱が行かないように様子を見るという硬軟織り交ぜた戦術が展開される。その結果、まずは配管ラックの火勢鎮圧に成功。次にサイメンプラント、そして17時15分にレゾルシンプラントの火勢を鎮圧した。

石油コンビナート火災
8時05分、レゾルシンプラントにおいて2回目の爆発が発生。上空に炎の塊が浮かび上がった。この爆発により、活動方針の変更された。(提供/朝日新聞社)
●災害前後の施設の状況比較
石油コンビナート火災
RSプラント 発災前写真 西側より撮影
石油コンビナート火災
発災後の現状写真(5/28現在)

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