ショアリング&リフティングの新たな可能性を探る【後編】

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ショアリング&リフティングの新たな可能性を探る【後編】

特定非営利活動法人ジャパン・タスクフォース(以下:JTF)が2017年6月24日~25日の2日間、兵庫県三木市の兵庫県広域防災センターの施設などで、これまでの活動を検証するイベントを開催した。
JTFは年に数回、検証イベントを開催しており、今回はこれまで行ってきた災害支援活動を振り返り、課題などを検討する内容とした。全国からJTFの会員が一堂に会し、様々な意見を交わした。
その模様を前後編に分けて紹介する。

Jレスキュー2017年9月号掲載記事

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テーマ2:ヘビーウエイト・ リフティング (重量物の持ち上げ) の固定と安定 〜各種資機材を試す〜

災害現場で重量物を持ち上げる際、バール等を使用した用手による方法が好まれる。それは、災害現場では使用する資機材の数に限りがあるからである。JTFの講習でもバールを使用する方法を中心に紹介している。しかし数に限りがあると言っても資機材を使用する方が効率的である場合も多い。そこで、災害現場でも持ち運びが可能な資機材を使用して重量物を持ち上げる際の注意点などの検証を行った。

使用する資機材は、電動油圧器具(スプレッダー)、エアマット式ジャッキ、ハイリフトジャッキである。それぞれ、持ち上げる力(パワー)は用手によるバールと比べると大きくて便利である。しかし、それぞれの利点・欠点を理解して使用しなければ、パワーが大きい分、リスクも大きくなる。この重量物の持ち上げが、US&R技術の中で一番事故が多いとされていることを忘れてはならない。

また、利点・欠点を理解することで、災害現場で重量物を持ち上げたり移動させる過程では、資機材の選択及び使用方法によって作業効率も安全対策も向上することになる。

簡単であるが、今回使用した資機材の利点及び欠点を紹介する。

[電動油圧器具]
  • 持ち上げる力は大きく、操作は容易であるが、不安定になりやすい。
  • 使用方法としては、間隙を広げたり、重量物の移動時に適している。
[エアマット式ジャッキ]
  • マットの大きさによって、持ち上げ力と揚程が変わる。
  • 空気ボンベが必要。(手動式エアポンプで対応可能)
  • 間隙の狭い場合でも使用できるが、重量物を持ち上げる位置として適切な場所に設置できるか? 重量物の重心などを考慮して使用しなければならない。
  • マットの形状が変化するため、一部分に力が集中しないような使用が望まれる。
[ハイリフトジャッキ]
  • 使用方法が容易であり、持ち運びがしやすい。
  • 持ち上げる高さが増すほど不安定になりやすい。

これらの特性を考え、実際にがれき施設で使用してみた。

[想定1]重さ約2.5tのコンクリート板の持ち上げと安定化
JTFイベント「災害時の支援のあり方について」
不安定な状態のコンクリート板を、ハイリフトジャッキを使用して持ち上げ。重心の見極めが重要になる。
ハイリフトジャッキとエアマット式ジャッキの併用
JTFイベント「災害時の支援のあり方について」
それぞれの資機材の特徴を理解して使用しなければならない。さらに重量物の状態を見極め、適材適所で使用する。この2つを無視した使用は、隊員を危険にさらすこともある。
JTFイベント「災害時の支援のあり方について」
地面が不安定な場所でのクリビングでは、全員の行動と意思疎通が合わなければ事故に繋がる。
[想定2]円筒型重量物の持ち上げと安定化
JTFイベント「災害時の支援のあり方について」
コンクリートの板より難度が増す。今回はエアマット式ジャッキを使用してリフトする方法を検証。円筒型であるため、片方だけに力が集中すると簡単に転がろうとし、隊員が危険になる。重量物の動きが監視できる場所に安全管理者を配置する。
JTFイベント「災害時の支援のあり方について」
エアマット式ジャッキを使用する場合、マットの面を均等に重量物に当てることは容易ではない。クリブの組み方も重要になる。
【検証結果】

各資機材は、バール(用手)での持ち上げと違い、重量物が容易に持ち上がる力を有している。しかし、使用方法に制限があるため、特徴(長所・短所)を理解して使用しないと危険を招くことが多い。資機材の能力で必要以上に持ち上げてしまうと安定(バランス)が悪くなり、さらにクリブを組むタイミングが間に合わなければ簡単にバランスを崩して危険が生じてしまう。特に不安定な場所での重量物の持ち上げは危険な要素が多く含まれている。資機材があることは便利ではあるが、資機材が増えることで危険が増すことも理解しておかなければならない。

今回は、クリブの組み方の一つ、『ヒンジボックス』の紹介や重量物とクリブの傾斜角の限界などについても紹介と検証を行った。

今後、JTFでは、今回の検証を参考に、一般社団法人ZENKON-nexと共同で「PPバンドや建物評価などを組み込んだショアリング」、「各資機材を活用した重量物の持ち上げ」などを紹介する講習プログラムを作る予定である。

最後に

今回のイベントに参加していただいた会員様が、7月3日に水難救助訓練中に不慮の事故で殉職されました。当団体にいつも多大なるご支援をいただいていたお方でした。ご冥福をお祈り申し上げます。

イベントに参加された際のアンケートに、ご意見を述べられていたので、一部紹介させていただきます。

「今回参加させていただきありがとうございました。災害支援への取り組みについてとても参考になりました。PPバンドの活用方法や資機材の使用方法など、色々試すことができて良かったです。私の消防士としての信念は、『為せば成る 為さねば成らぬ何事も』です。全国の消防士の方々と「やればできる!!」ということを証明できればと思います」

彼の残した言葉を心に刻み、これからも精進したいと思います。

特定非営利活動法人 ジャパン・タスクフォース

特定非営利活動法人ジャパン・タスクフォース(以下:JTF)が2017年6月24日~25日の2日間、兵庫県三木市の兵庫県広域防災センターの施設などで、これまでの活動を検証するイベントを開催した。 JTFは年に数回、検証イベントを開催しており、今回はこれまで行ってきた災害支援活動を振り返り、課題などを検討する内容とした。全国からJTFの会員が一堂に会し、様々な意見を交わした。 その模様を前後編に分けて紹介する。
Jレスキュー2017年9月号掲載記事

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