マンパワーが足りなければ、ウインチを活用すればいい!<br>杵藤消防式 【ロープウインチ活用】引揚救助活動法

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マンパワーが足りなければ、ウインチを活用すればいい!
杵藤消防式 【ロープウインチ活用】引揚救助活動法

ほとんどの消防にとって“マンパワー不足”は悩ましい問題だろう。杵藤地区広域市町村圏組合消防本部ではそれをただ嘆くのではなく、思い切って発想を転換。ロープウインチを活用することでマンパワー不足を解消し、活動の幅を広げている。

写真◎中井俊治
Jレスキュー2017年1月号掲載記事

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杵藤消防式 【ロープウインチ活用】引揚救助活動法
ロープウインチを使った、シンプルな引揚救助システム。
倍力システムの弱点

都市型ロープレスキュー最大のメリットは、資機材や倍力システムを駆使することで隊員のスキルや体力に依存せずに救助活動が行えるという点だ。しかしマンパワーに不安を抱える消防本部の場合、事案によってはこのメリットが活かせない場合がある。

平成22年12月、杵藤地区消防本部管内のダムで、高さ約50mの堤体からの転落事故が発生した。同本部では救助事案が発生した場合、特別救助隊(武雄消防署配置)が出動する体制をとっている。この事案にも特別救助隊が出動したが、要救助者は上下どちらからも接触困難な位置におり、救出までに時間を要した。事後検証の結果、同事案はロープレスキュー資機材を使った倍力システムによる救出が最適だったとの結論に至ったが、隊員らには懸念が残った。

倍力システムは高倍力のシステムを組むと使用するロープが長くなるため、この事案のように長い距離を引き揚げる際には現実的ではない。だが倍力を減らせば、その分隊員への負担が重くなる。特別救助隊には15名(5名×3交替、取材当時)が所属しているが、日によっては最少3名で運用しなければならない日もある。つまり、5名出動時より一人あたりの負担が大きく、多くの資機材を組み合わせることからヒューマンエラーが起こる可能性も高くなる。そのため同本部では隊員への負担を最小限に抑えてヒューマンエラーを防止すべく、平成26年12月の救助工作車の更新に合わせて可搬式ロープウインチの導入を決めた。

強力な助っ人を導入

ロープウインチは最大700kgの張力を持ち、1名で操作可能である。ロープはシングルでウインチに巻くだけなので、複雑な倍力システムを設定する必要もない。さらに本体は重量約17kgと非常にコンパクトなので車両積載時に場所を取らず、どこへでも持ち運びしやすい。唯一のデメリットはエンジントラブルの可能性が否定できないことだが、対処法として同本部ではビレイロープに倍力システムを作成し、引き揚げのタイミングでメインとビレイを切り替える方法をとっている。ロープウインチを使用する方法ならば、要救助者のもとへ2名(うち1名が救急隊員の場合もある)、ウインチ操作に1名、指揮を執る隊長1名で、特別救助隊員が最少3名でも活動可能となり、ロープウインチが実質1名分の役割を担ってくれるというわけだ。

平成28年6月、同本部管内の山で登山者が崖から約70m下へ転落する事案が発生した。この際は隊員2名が崖から懸垂降下して要救助者を発見、沢伝いに下山して救助した。このような山岳救助事案にも活用できるのではないかと、特別救助隊長らはロープウインチの可能性に期待を寄せる。ロープウインチという強力な助っ人を得て、杵藤消防の救助対応能力はより強固なものとなったに違いない。

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可搬式ロープウインチを使った引き揚げ救助訓練

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