三重県防災航空隊が本気でつくったコスパがよくて〈使える〉ヘリ

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三重県防災航空隊が本気でつくったコスパがよくて〈使える〉ヘリ

【三重県防災航空隊「みえ」】
平成29年9月、三重県防災航空隊は防災ヘリを更新し、新たに配備したAW139型の運用を開始した。
だがこの機体、ただのAW139ではなかった。

Jレスキュー2018年5月号掲載記事
写真・文◎伊藤久巳(特記を除く)

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独自仕様のAW139「みえ」を徹底解析!

三重県防災航空隊所属、AW139型JA119M「みえ」。最大出力3358SHPという強いパワーで、最大速度は306km/h。オプションのオートホバリングも付き、山岳救助事案でのパフォーマンスも大きく前進した。

津市伊勢湾ヘリポート
津市伊勢湾ヘリポート。駐機場に面した3棟のうち、右が三重県防災航空隊庁舎、中央が格納庫。
入札条件は3点のみ 条件クリアなら何でもよかった

三重県防災航空隊は自治体の防災航空隊としては全国5番目、平成5年に三重県津市にある伊勢湾ヘリポートをベースとして運航開始した。運用主体は、三重県防災対策部災害対策課防災航空班。防災航空隊はその班長を要として、隊長には三重県内中核5消防本部から交替で迎え、隊員は三重県内15消防本部から8名が任期3年で出向する。運航委託は中日本航空だ。

運用時間は1年365日、8時30分~17時15分を基本とし、事案があれば日の出から日没までの運用を可能としている。通常の救助活動では、各1名のパイロットと整備士がコクピットに搭乗し、キャビンには4名の隊員が乗りこむ。運航指揮者、地上へホイスト降下するR1、それを機上で支援するR2、ホイストロープを操作するホイストマンという分担だ。

発隊以来の年度間平均の緊急運航件数は61件(平成28年度は93件)。そのうち40件ほどは毎年度、山岳救助事案が占めており、隊におけるホイスト装置を使用した救助活動へのこだわりはより強い。機体はこれまでベル412HP型を運用してきた。その機体が平成29年秋に更新時期を迎えるのに際し、三重県防災航空隊では徹底的なコストパフォーマンス向上にこだわり、防災航空隊としての機体の常識を打ち破ったといってもいい、新しい考え方での機体更新を行った。

更新計画が実質的に動き始めたのは平成27年度に入ってから。機体選定はもちろん入札。調達仕様書で求められた性能は、次の3点のみというシンプルなものだった。

・ 定員14名以上の双発エンジン機。
・ 総務省消防庁指定の消防防災ヘリ装備品を搭載。
・ 三重県で一番標高が高い日出が岳(1695m)の山頂で救助活動可能な能力。

この条件に合致する機種はこれまで使用してきたベル412系の改良型(EP)のほか、H155、AW139など、いわゆる中型ヘリコプターと呼ばれる機種が該当する。

「どれもがいい機種だった。航空隊としては一切のこだわりを持たず、入札結果を待った」(三重県防災対策部災害対策課防災航空班・内山博司班長)。

レオナルド製AW139型「みえ」(JA119M)。全長16.62m、全備重量6.8tのコンパクトボディながら1679HPエンジンを2基搭載して高性能を発揮する。平成29年9月1日、運用開始。

[SPEC]
アグスタAW139 □エンジン/プラット&ホイットニー製×2 □胴体全長/13.77m □全幅/2.26m □全高/4.98m □主ローター直径/13.79m □機体重量/4400kg □最大重量/6800kg □最大速力/306km/時 □ホバリング限界高度/4682m □最大航続距離/798km □最大座席数/14席 □最大航続時間/約3時間53分 □配備年月日/平成29年2月10日 □艤装メーカー/レオナルド

AW139型「みえ」の塗装ベースは三重県特産の真珠をイメージした美しいパールマイカで、航空機としてはとても珍しい光沢のある塗装が大きな特徴。県内の美しい海を表した青、隊員の燃える情熱を表した赤で三重県の頭文字「M」が描かれている。
グッドリッチ製ホイスト装置&メンテナンスグリップバー

機体右側に装備されたグッドリッチ製ホイスト装置(ワイヤー最大長は約82.3m)と、その下側に装着されたメンテナンスグリップバー。整備士が屋根上のエンジンやギアボックスなどを点検、整備する際の落下防止で三重県防災航空隊が設計から製作までを発注した。ホイスト救助での機内引き込みでも大きな効果を発揮する。(右写真/航空隊提供)

バックビューカメラ
バックビューカメラからは、テールローターなど機体テールを映写し、救助活動現場などの接触危険を機長にモニターする。
機体下面中央
機体下面中央にはオートホバリング装置用のアンテナを装備する。
機体下面後方
機体下面後方には両側に地上捜索・広報用の拡声装置、中央にヘリテレの伝送アンテナ。
ヘリテレ用カメラ防振装置
機首下面に装備されたヘリテレ用カメラ防振装置。レンズ面を後方に向けた状態。
位置情報がタブレット上に表示
動態管理システムで位置情報がタブレット上に表示される。(写真/航空隊提供)
バンビMAX
バンビMAXはバケットを水に入れてくみ上げるほか、ポンプ付きの吸管で水利から吸水できる。水深は45cmあればよく、吸水速度も1トン60秒以内。(写真/航空隊提供)

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