正しく覚える「ラフティングボート」操船テクニック

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正しく覚える「ラフティングボート」操船テクニック

急流での救助や水害対応にゴムボートを導入している本部が増えているが、うまく操縦できているだろうか?
ゴムボートにもいくつかの種類があるが、流れの速い河川や氾濫現場でも活動できるのがラフティングボート。
ここでは日本に初めて本格的なラフティング技術を持ち込んだ竪村浩一講師による初心者向けの操船方法を紹介する。
今日レクチャーを受けるのは、資機材搬送車の更新に伴いラフティングボートを導入したばかりの村上市消防本部。
隊員たちは、これから操船技術を一から身につけていく。
訓練場所は村上市内を流れる荒川上流。川の水は、まだかなり冷たい。寒さに堪えながらの訓練が始まった。

講師:竪村浩一

写真・文◎小貝哲夫 取材協力◎村上市消防本部
Jレスキュー2017年7月号掲載記事

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STEP 1

【準備:ボートを膨らませる】

一般的なラフティングボートはコーティングした4層構造ゴム引布等でできていて、いくつかの気室に分かれている。使用時にはエアコンプレッサーやエアポンプを使い各バーツに空気を入れるのだが、空気が十分に入っていないと危険なこともあり、川の流速に応じて気圧をコントロールする必要がある。

また炎天下で放置しておくと空気が膨張し破裂してしまうこともあるので、その場合は空気を抜いておくことが必要だ。再度、空気を充填するときは内部の空気が太陽熱で膨張しているので十分に充填できないことがある。この状態で入水し、空気が冷やされることで空気が抜けたような状態になってしまう。その場合は空気を充填する前に水を掛け冷やしてから充填することも忘れてはならない。

保管するときはある程度空気を入れた状態で構わないが、紫外線に弱いので保管する場所には注意が必要だ。

コンプレッサーやハンドポンプを使い、空気を充填。周囲のチューブは4気室で、パーツごとに空気を入れていく。
STEP 2

【各部の名称を覚える】

ラフティングボートは前後・左右対称の大きな浮き輪のような形状のアウターチューブと強度を高める3本のスウォート、水抜き用の穴が内周に空いたフロアから成り立つ。ラフティングボートの船首をバウ、船尾はスターン。アウターチューブの外周には、落下防止のセイフティーロープが取りつけられている。

各部の名称
STEP 3

【服装はどうする?】

一般的なラフティングでは、季節に応じてウエットスーツ、ウエットジャケット、ドライジャケットなどを組み合わせて、グローブ、シューズ、そしてヘルメット、ライフジャケットを着用する。冷たい水から体を保護するだけでなく、岩などの接触から体を保護する目的もある。

また河川氾濫時等、市街地での活動では水が工業油などで汚染されているケースもあり、ウェットスーツで活動して肌がかぶれたという事例もあるので、ドライスーツの方がよい。

ウエットスーツ
ライスーツ
腰部分にスローバッグを装着している。
(ウエットスーツの場合も装着する)
STEP 4

【操船時の姿勢とパドルの持ち方】

漕ぎ手が座る場所はボートのアウターチューブ、つま先はスウォートの下に潜り込ませるようにして姿勢を保つ。体を大きくのけ反らせて、足をしっかりとキープできているかを確認する。

パドルの持ち方は、上端のT字型グリップ部分を掌で包み込むようにしっかり握る。反対側の手はしっかりと力が伝えられる幅でバーを握る。

Tグリップは絶対に離さない。流れが激しい場所を通過するときなど、水の勢いで防御していない顔や目にバドルのTグリップをぶつけてしまうことがあるからだ。ラフティング中に最も多いアクシデントが、パドルの怪我だ。特に救助の現場では、活動に支障をきたす恐れがある。

岩にぶつかりそうな時は「しゃがんで!」などの指示が出るが、この時はロープを掴んで船内にしゃがむようにして落水を防ぐ。

Tグリップは掌でしっかりと包み込むように握る。
Tグリップは掌でしっかりと包み込むように握る。
乗り方解説
ラダー係
ラフティングボートの方向を決めるのが「ラダー係」という舵取り係で、スターンの左右どちらかに座る。
STEP 5

【漕ぎ方】

基本的な漕ぎ方には、前進するフォワードストローク、後退するリバースストローク、向きを変えるスウィープストローク、横へ寄せるドローストローク、方向を修正しながら直進するJストロークなどがある。

ラフティングの場合は、ガイドがラダーポジション(舵取り)で方向を修正してくれるが、消防の場合は、様々な漕ぎ方を身につけ全員でラフティングボートをコントロールしなければならない。

フォワードストローク
ラフティングボートの推力がフォワードストロークだ。体全体を使って前方からしっかり後方まで約1m、大きく漕ぐ。
リバースストローク
リバースストロークは、力が抜けたときに体が開いてしまい落水の危険がある。パドルを腰に付け体のひねりを使い、半円形を描くように漕ぐ。終わったときは、体が内側を向くような要領だ。決して腰だけで漕がないよう注意する。
STEP 6

【ラダーポジションの役割】

ラフティングボートのスターン(船尾)が、ラダーポジション、つまり舵取り(Rudder)の座る位置だ。小さい舵取りは水面につけたパドルで微調整と軌道修正を行うが、大きく方向を変える時は素早く確実にラフティングボートの方向を変えることが重要になる。さらに推力と方向修正を連続的に行うJストロークを使えれば、1人でも大きなラフティングボートを自在に操ることが可能になる。

フォワードストロークと同じ要領で、可能な限り遠くから後方に大きく漕ぐことでラフティングボート の方向を変えるスウィープストローク、リバースストロークに相当するのがバックスウィープストロークだ。

スウィープストローク
スウィープストロークはラフティングボートの方向を変える時の漕ぎ方。スターンの左側に座っていれば右側に方向が変わる。体全体を使って、遠くを漕ぐことがポイント。
バックスウィープストローク
バックスウィープストロークは、スウィープストロークの逆方向にラフティングボートの方向を変える。
STEP 7

【乗り込み方】

流れのある川でラフティングボートに乗り込む時には、ラフティングボート自体が流されないようにすることが大切だ。まず船体をホールドする人間は岸側に位置して、しっかりとセイフティーロープをホールドする。浅瀬ならば反対側(川側)から乗り込めばよいが、初めての川で水深が不明な場合は岸側から乗り込む。

1人を残して、ホールドしていた人間が乗り込む。パドルなどの忘れ物がないかをチェックすることも忘れないように。全員が確実に乗船したことを確認して、最後の1人が乗り込む。

ラフティングボートをホールドするときは、流されないようにしっかりとセイフティーロープを掴む。
ラフティングボートをホールドするときは、流されないようにしっかりとセイフティーロープを掴む。
浅瀬ならば川側から乗り込むこともできる。確実に乗り込むまで、しっかりと船体をホールドすること。
浅瀬ならば川側から乗り込むこともできる。確実に乗り込むまで、しっかりと船体をホールドすること。
最後の1人を残して全員が乗り込む。
最後の1人を残して全員が乗り込む。
STEP 8

【操船の基本】

舵を取り、状況に応じて「漕いで!」「ストップ」「掴まって」「しゃがんで」と言った指示を出すのがガイド(ラダー係)の役目。消防の場合は必ずしも固定のラダー係がいるとは限らないから、その都度決めるといいだろう。誰かがリーダーになって全員のチームワークで操船できるようになることが重要だ。

後ろの人間は前方は見えるが、前方の人間は後ろが見えない。従ってパドリングのペースは、後ろの人間が前の人間に合わせることになる。つまりリーダーは前方で漕ぐ左右どちらかの人間になる。

リーダーは「1・2・1・2」「1・2・3・4」といった具合に掛け声でリズムを作り、「左漕ぐよ」「オーケーストップ」「合わせて漕いでいこう」「あの前方の岸の先端を目指そう」といったように具体的な動作、目標物を示して行動を明確に指示することが大事。それによって全員の力が合わせやすくなる。

操船の基本
操船の基本
操船の基本
操船の基本
STEP 9

【川の流れの中での操作】

川を横切るトレーニングの前段階として、エディ(反転流)からストリームライン(川が流れている場所)への出入りを練習する。実際の川の流れの中では、フォワードストロークやリバースストローク、スウィープストローク、ドローストローク、Jストローク、スウィープストローク、バックスウィープストロークなどのパドルワークを駆使して行うことになる。

川には流れがあり、激しく流れている場所に無防備に突っ込むと、フリップ(ボートが転覆すること)してしまうことがある。エディからストリームラインに入る時は、流れに対しバウ(船首)を約45度の角度で入っていくとフリップを防ぐことができる。ラダー役は的確な指示を出しながら、バウを下流に向けていく。

逆にストリームラインから出てエディに入るときも、バウが流れから外れるようにコントロールすると自然に上流にバウを向けてエディに入ることができる。

川の流れの中での操作
STEP 10

【川を横切る】

川沿いの崖から滑落した要救助者にアプローチしたい場合。崖を降りることが困難だが、川を横切ればすぐにアプローチできる。救助活動の現場で起こりうるロケーションだ。

この場合、流れの強さや川幅、流される距離などを考慮して、川のどこを渡るのが効率的で一番よいコースかを考える必要がある。それ以外にも入水できるエディの場所、対岸に渡ってもエディがないと救助活動が困難になる。

水量は季節に応じて変化し、今回の荒川は上流にダムもある。川の傾斜や地形によって、水の速度も変わってくる。流れは岸に近づくにつれて抵抗で遅くなる。水面下の地形も大きく影響してくる。川の流れを読むのは、簡単ではない。

川のストリームラインとエディ、その境目のエディーラインなど、川全体の流れを把握することが重要になる。
川のストリームラインとエディ、その境目のエディーラインなど、川全体の流れを把握することが重要になる。
エディの図解
川を横切る1
川を横切る2
STEP 11

【フリップ】

安定した構造のラフティングボートだが、川の流れを見誤るとフリップ(転覆すること)の可能性もある。その時のためのリカバリー方法も知っておく必要がある。

転覆したラフティングボートに這い上がり、フリップラインをサイドのセイフティーロープにカラビナで接続する。フリップラインを持って反対側のエッジに立ち、後方に重心を掛けるようにしてラフティングボートを元に戻す。

また、落水した人間を引き上げるときは、腕や肩などを引っ張ると脱臼など思わぬ怪我をする可能性がある。必ずライフジャケットの肩口など、無理のない場所を持つようにすること。水温が低い季節には僅かな時間でも体が自由に動かなくなってしまうので、引き上げる側も注意が必要だ。

川の流れは、水面よりも水面下の方が早いことが多い。人間が早く流されそうなときは、パドルのTグリップ側を差し出せば救助される側は握りやすい。

転覆したラフティングボート
転覆したラフティングボートに這い上がり、フリップラインをセイフティーロープにカラビナで接続。反対側のエッジに立って体重をかけると、ラフティングボートが起き上がってくる。
STEP 12

【パドルを使った搬送】

足元が不安定な河川敷にはストレッチャーなどが入れないことが多い。そんなときにはパドルを使えば簡単だ。

パドルを使った搬送
参加者
急流での救助や水害対応にゴムボートを導入している本部が増えているが、うまく操縦できているだろうか? ゴムボートにもいくつかの種類があるが、流れの速い河川や氾濫現場でも活動できるのがラフティングボート。 ここでは日本に初めて本格的なラフティング技術を持ち込んだ竪村浩一講師による初心者向けの操船方法を紹介する。 今日レクチャーを受けるのは、資機材搬送車の更新に伴いラフティングボートを導入したばかりの村上市消防本部。 隊員たちは、これから操船技術を一から身につけていく。 訓練場所は村上市内を流れる荒川上流。川の水は、まだかなり冷たい。寒さに堪えながらの訓練が始まった。
講師:竪村浩一
写真・文◎小貝哲夫 取材協力◎村上市消防本部 Jレスキュー2017年7月号掲載記事

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