首里城火災で奮闘した指揮隊<br>―那覇市消防局―

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首里城火災で奮闘した指揮隊
―那覇市消防局―

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編集部■その後の火災の推移は
指揮隊■木造正殿や内部の木組み構造等から火勢は増す一方だった。強烈な輻射熱により放水は燃焼実体に届く前に蒸発している様子もあり、正殿への有効注水は困難な状況だった。
この状況を見て、正殿への放水活動も継続しつつ、一方では延焼阻止を主眼とした活動に切り替え、正殿に隣接する建物群(北殿、黄金御殿、南殿、番所)への放水活動を併せて実施するように下命した。
また西高度救助隊長に対し、もっとも危険と感じた御庭周辺の安全管理を一元管理するよう下命するとともに、西消防署中隊長には南殿や黄金御殿が位置する南方面の局面指揮を執るように下命し、以上をもって安全管理体制を強化するとともに、消火包囲隊形を整える判断をした。
しかし、熾烈な火炎、熱気は収まることなく御庭を中心に渦を巻き、熱を帯びた空気が回りはじめ、正殿を正面に立っていても、背後、側面からも強い熱気を感じるようになり、御庭全体が危険な状況に変化し始めていた。
激しい輻射熱の影響からか、正殿周囲の建物(北殿、南殿、奉神門)の木造の壁面からは、通常の火災では体験することのない「シュー!」というような異音が発生し、同時に水蒸気のような煙が激しく吹き始め、さらに壁全体が順次発火していく現象が見受けられた。
また、石床の御庭が熱を持ち、場所によってはその場に留まることのできない状態となっていた。これは首里城正殿全面の御庭が四方を建物(正殿、北殿、南殿、奉神門)に囲われているため、熱気が籠るような状態が発生していたものと考えられる。

編集部■その後の指揮隊の活動は
指揮隊■指揮隊の活動開始後、約1時間が経過した3時50分、首里城を管轄する中央消防署長が現場到着し、ただちに指揮宣言。これにより現場最高指揮者が指揮隊長から中央消防署長となり、また指揮活動を補佐する指揮支援員を充実させるとともに、それまでの指揮隊も現場最高責任者(中央消防署長)の補佐系統に入って指揮活動を展開していく「署隊指揮」となり指揮隊の増強が図られた。
これにともない再度、火災状況の把握、警防体制の確認等、基本的な指揮のサイクルを確認し、安全管理、消火戦術の再考を図りながらの活動を実施した。
しかしながら依然として火勢は終息するどころか、予想を超える延焼速度に転戦が間に合わず、部隊が分断されるなど、活動は熾烈を極めることとなった。指揮隊ではその状況を見て、近隣市町村への応援要請を実施。また非番職員の非常招集などで更なる消防力の増強を図った。

首里城火災に苦戦する消火隊
夜が明けても消防力劣勢の苦闘が続く(撮影6時29分)。

編集部■その後の活動の推移は
指揮隊■当初設定していた延焼阻止ラインは、一進一退を繰り返しながらも押し下げられ、多面的に近接建物へと延焼拡大するなか、依然として消防力劣勢の状態が続いた。
また、強い北風に煽られて「飛び火」も激しくなり、近隣住宅街への延焼危険が増大するなど、一刻の猶予も許されない状況となった。
指揮隊ではその状況を見て、警戒範囲を拡大するとともに、一般住宅地への延焼阻止を実施すべく、これまでの活動方針「首里城周辺建物の延焼阻止、隊員の安全管理徹底」の二点にくわえ、「城下への飛び火警戒、延焼防止」を更なる活動方針として追加した。
一方、そのころ御庭周辺では、黄金御殿、南殿、北殿へと順次延焼するとともに時折、爆発音を伴う火災性状も発生し、建物の柱、壁面が一気に崩れだす状況となっていた。また、激しく炎上する正殿付近では、火災旋風のような火柱も出現し、活動の継続が極めて危険な状況に直面した。

編集部■爆発を伴う激しい炎上に際し、消火活動の一時的な停止、あるいは休止は考慮したか
指揮隊■四方を建物で囲まれた御庭の状況では、木造大建築(正殿)の炎上によるあまりに激しい輻射熱から、幾度となく御庭からの一時退避、また延焼阻止ラインを後退しながら、体制を立て直しての繰り返しであった。
もちろん継続的に放水活動を実施するよう努めてはいたものの、正殿への注水は、もはや火点に放水が届く前にすべて蒸発するという状態だったので、隣接する北殿、南殿(ともにRC造)への延焼阻止を目的とした注水が主とならざるを得なかった。
しかしながら、北殿、南殿とも、すでに内部延焼にまで達しており、その内部は炉窯のような燃焼状態で、さらには外張りの化粧板や、屋根瓦の崩落もあったため、内部進入しての注水活動は危険を極めるとの判断で、屋内への進入消火活動は下命できず、外部からの放水活動を余儀なくされた。

編集部■消防活動上の障害は
指揮隊■首里城は小高い丘にあるため高低差があり、かつ高い城壁で囲まれており、消防車両が容易に接近できないことが大きな特徴だ。唯一近づける場所が首里城二階御殿南側の駐車場で、防火水槽1基(60㎥)がある。この場所のほかは、水利から火点の正殿まで、200mから450mもの距離がある上、蛇行した通路、高い城壁、段差、傾斜、閉ざされていた城門などに阻まれ、ホース延長や転戦、さらには一定水量・水圧の確保に苦戦を強いられた。ホースの延長と長時間に渡る活動は、隊員の体力を容赦なく消耗させ、活動隊員は皆、気力を振り絞っての活動となった。
また、放水銃や屋外消火栓などの施設内消防用設備を活用するも、急速に水源容量を消費したことから10数分で水圧低下となり、活用を断念せざるを得ない状況に陥った(当初、水圧低下の原因は、機械的不具合か電源の遮断と認識していた)。
さらには消防隊が到着した時点で、すでに正殿内部まで火災が拡大していたため、屋内へ進入したうえでの直接注水が極めて困難な状況だったことから有効な注水ができず、外部からの冷却注水と延焼阻止が主眼となったことは否めない。
さらに、北東の風、風速5・7m/sという気象情報以上の風速があったと感じられ、強風によって延焼スピードが速く、かつ多面的に燃え広がり、消防の劣勢状態が5時間以上も継続することとなってしまった。

首里城火災の概要
首里城火災の活動状況

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