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BBB(バックボード・バスケット・ブランケット)固定法
平成23年度から中央消防署では、高エネルギー外傷事案でのRA連携活動のさらなる強化を図るための取り組みを始め、平成24年度からは大阪市消防局として、困難な救助活動を伴う受傷現場において、救助隊(R)と救急隊(A)が連携して医療機関搬送開始までの時間短縮と予後を考慮した最善の救助活動を行うための訓練を継続して行っている。(平成25年に「第16回全国救助シンポジウム」で発表) 「BBB固定法」は、脊柱運動制限を目的とした迅速な固定方法を、さらに、効率的に行うことと、要救助者への負担を極めて少なくできることを医療との連携の中で実証した固定法である。
(写真)大阪市消防局が考案した「BBB搬送法」。2名ですばやくかつ要救助者に極力動揺を与えず、脊柱固定からバスケット担架固定までをわずか30秒で行うスゴ技。
要救助者役は特別高度救助隊の坂本亮二消防士長。
Jレスキュー2018年7月号掲載記事
狭い! 困った!
数年前、大阪市消防局の中央消防署管内で、屋根上に落下した要救助者を救助するという事案が発生した。要救助者は高エネルギー外傷を伴うことが想定されるため救出に迅速性を求められる上、脊柱保護のため、要救助者の体位変換からバックボードへの固定までを行うことが必要であり、さらにロープ等で昇降するためにバスケット担架で固定をして救出しなければならない。通常、高エネルギー外傷のバックボード固定は3~4名で体位変換と固定作業を行うのがセオリーとして推奨されているが、救助隊に救急隊(救急救命士)も加わって対応する活動になるが、救急隊員はおろか、救助隊員が1人進入するのも困難であった。
2名での対応法を考えておこう!
上記の困った例のように、基本的な技術だけでは、時に対応し難い救助現場に遭遇することがある。当時、中央消防署特別救助隊として現場対応を行っていた隊員らは、救急隊と検証を行っていく中で、2名しか入れないような狭い場所だけではなく、進入そのものに時間を要する現場等において『必要最低限の人数で要救助者の状態を評価し、さらに、体位変換および固定を行うことができる』新しい手技・手法を生み出そうと2名で行う体位変換~固定の検証を行うことにした。
まず、体位変換の検証では、通常3名で行うログロールを2名に減らして試みた。隊員の配置は、頭部および腰部の把持に1名ずつ配置。比較的軽い体重の要救助者に対しては、脊柱管をそれほど動揺させることなくバックボードに乗せることができたが、重量級の要救助者の場合はどうしても力を加える点が少ないうえ力技に頼ることになってしまい、頭部側と腰部側で要救助者に加わる力加減にばらつきが生じ、脊柱管を動揺させてしまう結果になった。
次にログリフトについて検証することにした。まず、要救助者の頭側の延長線上にバックボードを配置し、隊員2名がそれぞれ頭部と腰部を把持しリフトアップする。要救助者の体が浮いた隙にバックボードを要救助者の下に数回に分けスライドしていくという手法だ。この手法は、要救助者を真上に持ち上げるだけなので脊柱管のねじれは生じなかったが、数回に分けなければバックボード上に完全に乗せることができず、要救助者の腰部付近までしかバックボードが乗っていない段階で要救助者の背中が若干反ってしまった。
しかし、真上に持ち上げるだけなら隊員2名の力でも加わる力にばらつきが出ない。重量級の要救助者についても同様に、脊柱管を動揺させにくいのは、2名で行う場合のログロールより、ログリフトの方であることがわかった。
人ではなくバックボードを動かす
隊員2名でも、要救助者の上半身を真上に持ち上げるだけなら脊柱管の動揺を極力少なく行えることから、要救助者ではなく、バックボードを要救助者の下に動かすという逆転の発想にたどり着き、ゴムチューブの使用を試みることにした。
要救助者と平行にバックボードを配置、バックボードに取り付けたゴムチューブを足で引っぱっておくと、要救助者をリフトアップすると同時に、バックボードがゴムの反動力で要救助者の下側へスライドし、バックボード上に乗せることができたのだ。ただ、ゴムの引っ張り加減によってバックボードの動く幅が変わってしまうため、腰部を把持する隊員の足の位置を工夫した。要救助者側の足を体側ギリギリに置くことにより、バックボードの行きすぎを止めるストッパーの役割を果たすのだ。これにより、一度で要救助者をバックボードの中央に乗せることができ、要救助者の位置を微調整するためのZ移動も省くことができた。
固定法と収容ポジション
BBB固定法に求められる脊柱運動制限の能力は、バスケット担架を水平状態でロープにより昇降移動させることを想定し、その際に脊柱管を動揺させないだけの固定力である。バスケット担架の固定ベルトとブランケット(毛布)のみで脊柱管を動揺させないようにするために、バスケット担架に設定する固定ベルトの位置と、ブランケットによる固定要領、担架上の要救助者位置について検証することにした。
通常のバスケット担架固定ベルトの位置では、要救助者の胸部や腹部にベルトが重なり、呼吸抑制や腹部圧迫をきたしてしまい、要救助者に苦痛を伴う設定になっている。そこで通常の固定ベルトの位置より胸部のベルトを1穴分頭側に移し、腹部についても1穴分下げて腹部の圧迫を防げるようにした。頭部の固定についてはブランケットをバックボードのヘッドイモビライザーの代用とした。このブランケットも、ロール状に設定し、頭部の左右に詰め込むことにより、ネックカラーと合わせて、ヘッドイモビライザーと同程度の頭頸部の固定力を保持することができた。また、ショック症状のような緊急性の高い重症要救助者をロープで昇降移動させる場合、担架の状態は水平が望ましいが、バスケット担架の通常の位置(中央)に要救助者を設定すれば、若干の頭部高位となってしまう。しかしながら、1分1秒を争う現場で要救助者の担架内での微妙な位置関係の調節をその都度行うことは難しいため、バックボードをバスケット担架の頭側の先端に配置し、それに合わせたバスケット担架の吊り上げ用の設定をテープスリングで事前に設定することで、バスケット担架の水平ポジションの設定を容易に行えるようにした。
活動時間を100秒も短縮!
基本的なバックボードとバスケット担架による固定方法と時間的な比較検証を行った結果、基本的な固定方法では平均約130秒を要したが、BBB固定法では約30秒と要救助者の固定において100秒以上の時間短縮を図ることができたのだ。加えて2名で固定できるという点で隊員1~2名分の進入時間も短縮でき、要救助者に救助隊員が着手してからの大幅な時間短縮を図ることができた。この方法を考案した大阪市消防局では、「これは、困難な救助現場においてで必要最低限の人員でできる限り要救助者の脊柱運動制限を考慮し、なおかつ迅速な救出に特化した方法だ。RA連携救助活動の最大の目標である“困難な救助現場における防ぎえた外傷死の撲滅”に資するための一つの武器となる」として、平成30年度より全消防署所に周知することにした。
ゴムチューブの活用をひらめいた大串消防司令補は、「1秒でも早い救助と要救助者の予後まで考慮して考案したが、どんな現場でもこの方法を推奨しているわけではなく、原則、3、4人で活動できる現場であれば基本的な固定方法がよいと考えている。ただ、救助の現場に一番最初にアプローチするレスキュー隊員は困難性の高い状況に遭遇する可能性が高く、この方法を引き出しの一つとして持っていることは有用なはず。大阪市消防局の隊員に限らず全国の消防で活用してもらえればうれしい」とコメント。救急隊員として開発に携わった野村主任は、「私が救助現場活動で念頭に置いていることは、『各隊員間の情報の共有と一元化』。これからも様々な検証を救助隊と共に行い、現状の活動で打破できなければ、新しい考えや活動そのものを創りだして行きたい」と語る。
大阪市では昭和28年から業務の改善や能率向上を目的とした「職員提案制度」を導入しており、このBBB固定法は、毎年多く提出される提案の中から、平成29年度の優秀賞として市長表彰を受けている。
使用ツール
手順
写真のように隊員2名が進入するのがやっとの狭い現場で、高エネルギー外傷を想定した要救助者に脊柱運動制限を施し搬送する。
「1、2、3」のかけ声で要救助者を抱えると、ゴムの反動力でバックボードが要救助者の下に滑り込む。
細身の要救助者の場合
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