最小限の人員と道具で戦う究極のレスキュー<br>【静岡市消防局―山岳救助隊】

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最小限の人員と道具で戦う究極のレスキュー
【静岡市消防局―山岳救助隊】

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しずはた山岳救助隊の装備

冬以外の時期に隊員が着装し、携行する基本装備。下段は沢登り用の靴とスパッツ
冬以外の時期に隊員が着装し、携行する基本装備。下段は沢登り用の靴とスパッツ。非常用に雨具やダウン(上段右側の袋3点)も携行し、40リットルのザックで登る。ハーネスは長時間登るのに適した軽量タイプ。
山岳救助隊の個人装備
山岳救助隊の個人装備。ヘルメットから靴まで山専用のもので揃えている。
雪山用のピッケル(写真上)とスコップ
雪山用のピッケル(写真上)とスコップ。
冬用の装備。上段左から手袋、フリース、冬用ズボン、防寒着。下段左から厚底の靴、軽アイゼン、アイゼン。
冬用の装備。上段左から手袋、フリース、冬用ズボン、防寒着。下段左から厚底の靴、軽アイゼン、アイゼン。
宿泊用のバーナーとコッヘル(鍋)。
宿泊用のバーナーとコッヘル(鍋)。
管轄エリアの地図
管轄エリアの地図(1/2500)はすべて一冊にファイリングし、出動があれば各隊員がコピーをして携行する。
雪山用装備。(上段左から)ゴーグル、輪かん、スノーシュー。(下段左から)80リットルザック、冬用寝袋。
雪山用装備。(上段左から)ゴーグル、輪かん、スノーシュー。(下段左から)80リットルザック、冬用寝袋。
救急バッグ
救急バッグ。携行できるものが限られているので、一式すべてを持って行くことは少なく、小分けにした小バッグ1つを携行することが多い。
山岳救助で使用するスタティックロープ。
山岳救助で使用するスタティックロープ。
バスケット担架
バスケット担架。山ではこのタイプが徒手で搬送しやすい。
レスキューハーネス
レスキューハーネス。背負って搬送する際に使用する。
衛星携帯電話(右)と GPS(左)。
衛星携帯電話(右)とGPS(左)。
ロープレスキュー用の器具一式。
ロープレスキュー用の器具一式。
少人数で活動する場合の携行例
少人数で活動する場合の携行例。

背負いハーネスでの交替の仕方

1.救助隊員が両脇から要救助者の太ももを持ち上げる。
1.救助隊員が両脇から要救助者の太ももを持ち上げる。
2.背負っている隊員が片方の肩からストラップを外すと同時に交替員の上でストラップに滑らせる。
2.背負っている隊員が片方の肩からストラップを外すと同時に交替員の上でストラップに滑らせる。
3.交替員がすばやく要救助者を支えるポジションに入り、もう片方のストラップもゆっくりと交替員と腕を入れ替える。
3.交替員がすばやく要救助者を支えるポジションに入り、もう片方のストラップもゆっくりと交替員と腕を入れ替える。
4.交替完了。交替ごとに地面に降ろすと要救助者の負担も大きくなるので、立った状態で交替する。ハーネスの両端からビレイロープの設定を行う。
4.交替完了。交替ごとに地面に降ろすと要救助者の負担も大きくなるので、立った状態で交替する。ハーネスの両端からビレイロープの設定を行う。
5.必ずビレイで他の隊員が確保する。下りの時は後ろで確保。
5.必ずビレイで他の隊員が確保する。下りの時は後ろで確保。
6.登りの時は前方で確保する。
6.登りの時は前方で確保する。

INTERVIEW

静岡市消防局<br>千代田消防署 しずはた出張所<br>出張所長山岳救助隊長<br>消防司令 繁田陽司<br>

静岡市消防局
千代田消防署 しずはた出張所
出張所長山岳救助隊長
消防司令 繁田陽司
昭和61年拝命、特別救助隊(15年)、静岡県防災航空隊(3年)、警防課、総務課、水難救助隊(5年)を経て平成26年4月より山岳救助隊隊長

「隊長として努めているのは、経験豊富な副隊長のサポートとして、2次災害だけは絶対に起こさないこと。そのためには日頃から風通しのよい環境を作っておく必要がある。隊長、副隊長であってもミスすることはあるが、その時に、隊員であっても上司に向かって「危ない」と言える環境でなければならない。一瞬の躊躇が危険防止を遅れさせることになるので、隊員間に壁のない環境を作っておくべきだ。
やる気があって志願してきている隊員も多く、細かい技術的なことは自発的にできている。隊員にゆるみが出た時だけ、隊長と副隊長で管理していけばよいと思っている」

副隊長<br>消防司令補 望月将悟<br>

副隊長
消防司令補 望月将悟
平成9年拝命(旧清水市消防本部)。合併前の平成11年11月より山岳救助隊。

「静岡市内でも山の多い地域で育ち、幼いころから山に親しみ、山岳救助に携わって17年目となるが、山岳救助隊員である前に、消防職員として困っている人がいたら助けられるように、という想いで向き合っている。山の救助は、道具が十分ない中でどれだけやれるか、というサバイバル能力が求められるが、それを追求することは、震災や特殊な大規模災害の際にどこまで対応できるかという対応能力を付けることにつながっていると思う。山岳救助隊としては、南アルプスという日本を代表する名山で活動できることを誇りに思う一方で、隊員も足を滑らせれば大きな事故につながるので、一瞬の気の緩みも許されない非常に厳しい活動である。ベテラン組の自分の役割は、後輩を安全に活動させること。ロープレスキューシステムも、ツールの進化によって少しずつ変わっているが、新人も覚えなければならないので、事故のリスクを減らすためにもシンプルをモットーにやっている」

副隊長<br>消防司令補 長谷川大介<br>

副隊長
消防司令補 長谷川大介
平成12年拝命。平成15年10月より特別救助隊、 平成25年4月より山岳救助隊。

「標高の高い南アルプスは、山岳救助隊1小隊だけで出場しなければならない。平地での一般的な救助事案や、低い山の事故などでは、指揮隊や特別救助隊、救急隊のバックアップも得られ、それぞれの役割だけをやればよいが、山岳救助隊だけの現場では、現地での情報収集から航空隊への連絡、連携方法の調整などすべてを山岳救助隊だけでやらなければならないので、コミュニケーション能力も必要だ。
山で活動することのリスクは、実際に山の中を歩かなければ見えてこない。どれだけ山に入っていたかという経験が実災害で生きる。山では『見る目を養う』ことが大事。危険を察知する目、対処法を見つける力が必要になる。それらの力は訓練の中で身につけていくしかない」

平成26年の御嶽山噴火災害では、山岳救助隊だけでなく、大量の特別救助隊が動員されたのが記憶に新しい。 都市部で活動する救助隊にとって、不慣れな山岳部での活動は困難を極める。 不安定な急斜面を登っていかなければ到達しない現場へのアクセスは、危険を伴い時間もかかる。 十分な資機材を携行することもできない。 要救助者の救助にも山岳部ならではのノウハウが必要になる。 さらに天候はいつなんどき急変するかわからないし、 噴火災害であれば、いつまた噴火するかわからない危険にさらされる。 山岳部では、都市部の救助テクニックが通用しない局面が多々あるのだ。 日本の活火山は計110。うち24時間の観測・監視が必要な火山は50にものぼり、 全国どこでも噴火災害が起きる可能性がある。 登山者やトレッキング、バックカントリーを楽しむ人の増加に伴い、山岳救助事案も急増中。 山岳部がすでに、山岳救助のプロフェッショナルだけの領域とは言っていられなくなった今、 都市部の救助隊であっても、山岳救助の知識を持ち、備えを強化しておく必要がある。
静岡市消防局しずはた山岳救助隊(写真/伊藤久巳) Jレスキュー2016年7月号掲載記事 写真◎伊藤久巳(特記を除く)

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