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消防にとって、リーダーの条件とは何か?
これからの消防のリーダーに求めるもの
1.現場でリーダーシップを発揮できる人材の育成と部隊の養成
消防組織の目標は、どんな災害時にも被害を最小限に食い止めるためのリーダーシップを発揮できる隊長と、その指揮に従う隊員を育成することだ。
2.1年後より10年後の消防を考える
大きい消防組織も小さな消防組織も、組織としての10年プランを作成すべきだ。そして、3年プランは実施計画的なものとし、それ以降は財政プランの縛りはあるが、大きな夢を描いてほしい。私は現役時代、エアーハイパー構想や大規模総合訓練場の設置、あるいは通信指令業務の要塞化などの夢を語ってきた。消防は予算の議会審議などの手続きがあり、新事業はなにごとも時間がかかる。10年後は決して遠い未来でない。逆に言えば、何かを実現しようと思えば、10年前から考えアクションを起こす必要があるということだ。
3.『防災総コスト』の考え方を知る
今まで防災コストを論じるときには、実際に発生した火災や震災時における損害額のみを対象にしてきたが、これに間接損害や人的損害、あるいは消防隊経費、建築防災経費などを加味し、総計してこれを低減することを考慮してほしい。
定義がないので難しいが、個人的見解で総計防災コストを計算してみると、平成22年度の国の総計は約4兆円に及んでいる。公表されている火災損害額は1018億円なので、ざっと40倍にもなる。総計防災コストの考え方を導入することによって、予測値ではなく実際に発生している総計防災コストを算出し、地域ごとあるいは企業ごとに適切な防災経費や消防隊経費、火災保険経費などを算定することが可能ではないかと思う。
4.『災害臨界点』の考え方を理解する
一般に、火災やテロ災害などの被害量は時間の経過とともに増大する。人はこの被害量は一次曲線的に増大すると思いがちであるが、現実はそうではない。東京には消防職員は1万8千人おり、年間の予算は2500億円。世界でも消防力が最も充実しているといわれており、基準上は5分以内に消防車が2台以上、10分では5〜10台、それ以降は災害規模に合わせて数百台集結する。これだけ集まれば消せない火災はないと思うだろうが、東京でも消えない火災がある。1〜2年に1回程度、焼損面積が1000㎡を超える火災がコンスタントに発生している。1000㎡というと、街区が一ブロック燃えてしまい、広い道路でようやくとどまるという状態だ。なぜこんなことが起こるのかというと、災害は最初に比較的ゆっくりと広がるが、いわゆる臨界点を境にもはや消防力では対応が困難になり急拡大する。これはテロ災害でも同様で、災害の被害が急激に立ち上がる前、災害の力が消防力を上回る前(=臨界点に達する前)に対応しなければならない。
5.CBRNEに対応できる隊形成を
NBC災害と呼称されてきた特殊災害は今、これにR(radiological 放射性物質)、E(explosives/incendiaries 爆弾、焼夷弾)を加えて、世界的にはCBRNE(シーバーン)と呼称している。この化学、バイオ、放射線、核、爆発物にかかる災害は、発生すると被害は甚大である。例えば地下鉄サリン事件や福島原発災害、白い粉事件など、消防はすでにこうした災害を経験しており、さらには爆発事件には多数出場している。これからの指揮者は、通報や事前の情報を得た際に常に、これらの特殊災害の可能性を意識して装備を整備するとともに、情報収集や分析、被ばく対応、除染などについての教育訓練を十分に実施しておく必要がある。
6.マスコミ対応を積極的に行う
災害時は当然のこと、消防の新たな施策、不祥事などは積極的にマスコミに公表しなければならない。災害現場では、ひと段落した段階で災害の概要や死傷者の状況、今後の見込み、問題点など記者を集めて公表する。消防側に問題がある場合や不祥事も公表し、その中でも主張すべきことは主張し、謝罪に至る場合は記者会見を行うことが重要である。一般市民の消防に対する評価はマスコミを通じてのみ行われている。非公表、無評価な体質は、組織の衰退にもつながりかねない。適正な報道対応を行うためには、事前訓練をしておくことも大切である。
7.消防団との連携
現在、消防職団員の総数は約100万人と言われている。うち消防団員が88.3万人で消防職員は15.8万人である。圧倒的な数で地域の防災を支えているのは消防団である。消防職員は、消防団員の方々が生業を持つかたわらで団活動を行っている状況を理解し、協力体制を強固にしておくとともに、消防団に対しての尊敬と情報交換、人間関係の醸成が重要である。
8.防災市民組織や事業所防災組織等との協力
予防活動でも地域組織との協力は欠かせない。防災市民組織や婦人防火クラブ、消防少年団などの関係団体は、消防組織の心からの協力者である。ここでは尊敬され愛される、人間性主体のリーダーシップをとるべきだ。
9.新たな消防資機材の開発導入を
災害現場で適切なリーダーシップを発揮しても、時には事故が発生することがある。隊員の安全を確保するために、例えば隊員の位置を監視するシステムや燃焼ガス噴出予知装置、建物崩壊予兆装置などの開発導入を進めるべきだ。また、東日本大震災でツイッターが世界を駆け巡り、猪瀬副知事のパソコンに到着したことで446人の方が救助された。今後は電話通報だけでなくSNSを活用した緊急通報受信体制が必要だ。さらには緊急援助隊用の兵站部隊の設置も考えたい。
10.災害現場における調整機関の設置
災害発生時、もっとも早く現場に到着し活動を始めるのは消防機関である。その後は、災害規模に応じて警察や自衛隊、海上保安庁などが集結し、現地災害対策本部を設置し、役割分担などをしていく。また市や県では災害対策本部が設置され、他県への応援要請、応急対策、復興対策などを検討していくというのが現在の災害対応の流れである。ここで問題なのは現地の調整である。国からは政府現地対策室が、市からは市現地対策室が、さらに警察、消防、自衛隊とこれまた本部は分かれている。このようにバラバラな現地調整本部がいくつも設置され、あまり統一が取れていないのが実情だ。現場でのスムースで効果的な活動を行うためには、指揮系統が一本化した調整機関の設立が必要だ。
11.大規模消防訓練場の設置、直轄部隊の導入
平成23年2月22日8時51分に発生したニュージーランド地震に対し、国際緊急援助隊は翌日の23時頃に成田空港を出発した。国際緊急援助隊の登録本部から隊員が成田に召集され、外務省の管轄に入るシステムだが、出発までにあまりにも時間がかかりすぎているのではないか。人命救助のゴールデンタイムは72時間。現状の出発までの手順に問題があるのだろうが、国の直轄部隊を編成して、空港近くに常駐させておく方法も検討すべきでないか。台湾では109ヘクタールの広大な消防訓練場を持ち、そこに援助隊を常駐させている。日本もこうあるべきだ。