東京の海・河川を守る<br>日本最大級の舟艇部隊と水難救助隊 ―東京消防庁―

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東京の海・河川を守る
日本最大級の舟艇部隊と水難救助隊 ―東京消防庁―

令和元年6月、東京都中央区晴海に東京消防庁臨港消防署が竣工した。
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、警備・災害対応の重要拠点となった臨港消防署、そして全庁で6隊の水難救助隊を擁する東京消防庁の水難救助体制に迫る。

写真◎伊藤久巳(特記を除く)
Jレスキュー2019年11月号掲載記事

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東京の海を管轄する臨港消防署

東京消防庁臨港消防署の最大の特徴は、東京湾の水上エリア(京浜港東京区と東京東航路および東京西航路)の警防を担うために大小6艇の舟艇を運用していることである。これほどの数の消防艇を擁する消防署は全国をみてもほかにない。

管内は、東は晴海運河、西は隅田川に囲まれ、東京湾の水面、中央防波堤内側埋立地、中央防波堤外側その1埋立地および中央防波堤外側その2埋立地まで。6種の舟艇に加えて、陸上部隊としてポンプ車1台、指揮隊車1台の2台を第一線車両として配備。この他に人員輸送車、広報車、非常用ポンプ車などを配置し、はしご車、化学車、救急車などは管内の月島消防出張所に配置されている。

部隊構成は、ポンプ隊、指揮隊、水難救助隊、各舟艇隊。災害時にポンプ隊が舟艇隊と連携し、舟艇に乗船することもある。なお、指揮隊は出場指令段階で大隊長の判断で、指揮隊車か指揮艇「はやて」で出場するが、火災事案等で舟艇が出場する場合は、現場において海上保安庁、警察の舟艇部隊と船内で作戦会議を行うこともあるため、会議スペースを広くとれる大型化学消防艇「みやこどり」で出場する例もある。

水上管轄エリアの業務

水上管轄エリアは、東京湾・京浜港東京区の海面すべてと、広大だ。船舶火災事案、水難救助事案など、ここで発生したすべての災害に対応し、警戒活動などの任務もある。

また、東京湾から内陸に流域が伸びる多摩川、隅田川、荒川、江戸川など大きな河川に加え、その支流や放水路、さらには小さな運河などが都内に点在する。ここでの災害についても、舟艇隊が管轄の陸上隊よりも早く到達できたり、水上での活動が有効な場合には、舟艇隊に出場指令が下る。大型艇は艇の最大高の関係から橋が架かる川の上流へは入っていけないが、これを想定して最大高を低く抑えている水難救助艇などはかなり上流まで進出でき、時には多摩川、荒川、江戸川などの東京消防庁管内ぎりぎりのところまで出場指令がかかることすらある。

一方、大量放水が可能な「みやこどり」「すみだ」「おおえど」は、東京湾消防相互応援協定や緊急消防援助隊部隊として東京湾外まで出場する場合もある。

「この現場で救助できるのは我々だけ」の一心で、暗く、寒い水中に潜る

大森消防署3部水難救助隊。
大森消防署3部水難救助隊。

東京消防庁では毎年約250件の水難救助事案に対処するため、日本橋(浜町出張所)、臨港、大森、足立(綾瀬出張所)、小岩、調布の各消防署に水難救助隊を配置。隊員は全員が基本的な水難救助技術と危険回避技術、そしてより高い使命感と強靭な体力を養成する水難救助技術研修の修了者で、国家資格の潜水士免許が必須のほか、小型船舶操縦士免許、特殊小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士などの資格を取得し、幅広い活動に活かしている。

水難救助活動は速潮流、風速、高低水温、水圧、ゼロに近い視界など、陸上生活とはまったく異なる過酷な自然環境の下、恐怖心と闘いながらの活動を強いられる。だが、溺者の検索救助活動は水難救助隊にしかできない活動で、隊員はその誇りと使命感を胸に現場活動と日々の訓練に励む。なかでも潜水活動は、水中で1本のロープに繋がって検索を行うため、仲間の活動技術や体調、気持ちを思いやることがとても重要で、隊員同士の絆が非常に強固だ。

東京消防庁の水難救助隊6隊のうち、臨港消防署と日本橋消防署浜町消防出張所の両水難救助隊は舟艇で出場する。

対して、大森、綾瀬、小岩、調布の各水難救助隊は水難救助車を運用し、車両にゴムボートを積載して出場する。災害発生ポイントごとに直近の隊が出場するが、場所によっては舟艇と水難救助車による水難救助隊の両方に同時に指令がかかることがある。

いずれの水難救助隊も、現場までの移動手段が異なるだけで、一度水中にエントリーしてしまえば現場活動は同じだ。

ウエットスーツと潜水具一式
ウエットスーツと潜水具一式。潜水具には水中通話装置を装備する。
水中通話装置
水中通話装置。
左は水中隊員用、右は地上隊員(隊長)用。

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