震災対応に強くなる重機訓練法 ―取手市消防本部―【前編】

Special

震災対応に強くなる重機訓練法 ―取手市消防本部―【前編】

全国に先駆けて、約18年前に重機の専門部隊を立ち上げた茨城県・取手市消防本部。独自のがれき訓練施設はリアルと評判高く、全国の消防職員がこぞって取手に集結し、CSR訓練を行っている。その取手市消防本部が昨年末、満を持して関東6消防本部合同の意見交換会及び実動訓練会を開催。その訓練の詳細と、取手災害重機機動隊の驚くべき装備と技術を紹介する。

写真◎伊藤久巳、取手市消防本部
Jレスキュー2021年5月号掲載記事
(役職・階級・体制は取材当時のもの)

Twitter Facebook LINE
見習いから正規オペレーターへ
災害重機機動隊の道

茨城県取手市消防本部は、取手市が平成18年(2006年)を防災元年として「災害に強い街づくり」に取り組み始めたことを受け、平成19年、地域の建設業協会の協力を得て重機オペレーターの養成を開始。同年4月に「災害重機機動隊(以下、重機隊)」を発足させた。

茨城県南部に位置し、千葉県とも隣接し、利根川、小貝川に面している取手市の場合、東京湾北部地震、茨城県南部地震、千葉直下型地震、成田直下型地震が想定され、いつ大規模な災害が発生するかわからない。大規模自然災害時に、消防は地域の復旧ではなく人命救助へ向かう進入路の確保のために、がれきを排除する重機が必要となる。人力では移動できない重量物障害を少ない人数で効率よく行うためには、重機は欠かせないツールなのである。

また取手市消防本部には、吉田大祐消防司令長(取手消防署副署長)という土木建設業での重機操縦の経験者がいた。重機の活用性を熟知している吉田副署長による、「今後は、重機を扱えなければ自然災害に対処できない」という強い働きかけによって、全国に先駆けて約18年前に消防本部独自に重機を整備し、重機対応の部隊が創設された。

隊は特別救助隊が兼務しており、1隊9名2部制の計18名が災害重機機動隊ともなる。救助隊としてさまざまな訓練を行わなければならず、重機操作の訓練時間を確保するのは容易ではない。そこで取手市は操縦の技術レベルを見える化する独自のテスト制度を取り入れ、テストに合格していない職員はオペレーターとしては「隊員見習い」と呼称している。この制度の背景には、若手には操縦者の技術を見てどんどん盗んでいってほしいという思いが込められている。最初の技術テストは、消防本部が独自に整備した小型重機で行われ、それに合格すると、総務省消防庁貸与の大型重機の操縦ができる制度になっている。

震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
取手市消防本部の災害重機機動隊。
写真左から消防副士長・山名省吾、消防士長・貝塚将人(救助隊長)、消防司令補・秋田浩平(救助隊長)、消防司令補・武藤久士(救助隊長)、消防士長・櫻井稔、消防士・山崎貴大。
CSRM対応がれき訓練施設の設置

また取手市消防本部では、兵庫県三木市のがれき救助訓練施設とほぼ同時期に取手消防署敷地内にがれきCSRM多種災害訓練場を完成させた。当時、関東にはこのようなリアリティのある訓練施設はなかったことから、研究会という消防職員有志で構成される勉強会へも施設を貸し出し、これまでに全国の救助隊員1500人以上がこの施設で訓練を行っている。これというのも、施設の使用を消防長の決済がなくとも警防課長の決済のみで可能とし、手続きが簡便化されているためで、吉田副署長の「誰でも使用できる施設にしたい」という強い考えにより実現したものである。

クローラー(無限軌道)取付要領

足場の悪い災害現場で重機を動かしていると、現場でクローラーが外れることもあり、現地で張り替えができなければならないという場面も出てくるだろう。重機取り扱いの基本として、クローラーの脱着方法を確認しておこう。

操作の注意点

クローラーが外れた時の取り付けポイントとして、必ず2人以上の作業員が必要となる。手順は次の通りで、正しく行い事故を防ぐこと。また、各機種やモデルにより交換方法が異なる場合があり、安全装置を解除後は他のレバー等に触れたときに車両が動くため注意が必要。エンジンが始動していても自然に降下する可能性もある。

手順
  1. 機体(キャリア)側面に四角い蓋(蓋がない機体もある)があるので外し、内側にあるニップルバルブを確認する。
  2. 作業の安全を確認したら、機体自体での持ち上げ(機体の腕を使いクローラーを地面から浮かせる)を行う。
  3. 内部グリスは圧力がかかっているためバルブはゆっくり緩め、クローラーの状態を確認しながら操作する。
  4. ニップルバルブを外し、清潔なウエスで清掃。(パーツクリーナーなど)
  5. グリス排出でクローラーは緩むが、フロントアイドラーを押し込むことでさらに緩む。
  6. クローラーが外に外れた場合は、スプロケット側を先に取り付け、単管パイプ等をクローラー外側から内側へ貫通させ内側に送り出しフロントアイドラーに乗せ、中心を確認。
  7. 中心部に乗せた後はニップルバルブの締め込み、グリスを送り込むことでクローラーの張り込み作業が完了するが、ここで注意点!!

【注意点】場合によってはクローラーを動かしながら押し込むことで入りやすくなるが、巻き込みには十分注意すること。また、クローラーは、張りすぎると外れの原因となるので、少し遊びがあるくらいで構わない。

震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
1/フロントアイドラー(ギザギザが無い円盤)はグリスを抜き入れすることで前後にスライドする。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
2/スプロケット側に装着の際、事故には十分気を付け、単管パイプ等でクローラーを誘導する際は、巻込みに注意しなければならない。ニップルバルブを緩める際はウエス(パーツクリーナー等)でグリスや汚れを除去しクローラーを確認しながら行うこと。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
3/グリスを排出し緩んだクローラーをスプロケット側から装着させ次にフロントアイドラーの中心に乗せ、安定したらグリスアップにてクローラーの張りこみを行う。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
4/スプロケット(後部走行モーターでギザギザの回転する円盤)から鉄クローラー(鉄シュー)・鉄クローラーゴムパット付(ゴムパット付鉄シュー)を外す。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
5/ゴムクローラー(ゴムシュー)のゴムパッド取替中。ゴムパットやゴム式のクローラーは走行時に路面を傷つけないという特長があるが、鉄板の上では滑りやすい。一方、鉄式はがれきや傾斜地での走破性がよく、耐久性も高い。
関東7消防本部合同重機研修会

取手市消防本部が関東エリアで重機を運用する(予定を含む)消防本部に声がけして企画した「意見交換会及び実動訓練」が2020年(令和2年)11月14日に開催され、6消防本部から26名が参加した。

各消防本部が、重機を運用した事例の発表を行った後、取手市消防本部の重機隊がクローラー取付作業と重機取り扱いのデモンストレーションを実施。続く実動訓練は5つの課題が設定され、グループでローテーションを組んで各課題に取り組んでいく。

重機操縦のポイント
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
6/重機を操縦する際には滑り止め加工をしていないごく普通の純綿製の軍手が最適。レバーを動かすと角度が変わっていくので、レバーを握る手の中である程度自由度が必要となる。このため、軍手の手のひらの滑り止め加工は不要で、さらに言うと、消防用の革手はまったく滑りを許さないので操縦には不向きと言える。材質面からは、ポリエステルやアクリルなどの化学繊維より、耐熱性に優る純綿製が適している。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
7,8/エンジン始動時は左側面にあるセーフティレバーを引き上げないと、エンジンキーを操作してもスターターモーターが回らない。セーフティレバーは油圧をロックして機体のすべての可動部が動作しないようにするシステムで、エンジン始動と同時に不意に可動部が動作する危険を防止する。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
9/取手消防では左右の操作レバーは、ISO式パターンではなく工事現場などでもっとも多く用いられる旧コマツ式パターンに調整している。旧コマツ式では、手前の左レバーは前方に倒して右旋回、後方に倒して左旋回、左方に倒してアーム伸長、右方に倒してアーム屈折、向こう側の右レバーは前方に倒してブーム下げ、後方に倒してブーム上げ、左方に倒してバケット掘削、右方に倒してバケット投棄。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
10/前方のレバーはクローラーの前後進レバー。左が左クローラー、右が右クローラーで、どちらも前方に倒して機体が前進、後方に倒して後退する。左右の動作はそれぞれ独立しており、左右それぞれを動作させることによって機体を旋回、また左右逆に動作させることによってその場で機体を回転させることが可能になる。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
11/取手消防では2本のレバーの下には足踏み式のペダルを取り付け、レバーの動作を足踏みでも可能にしている。写真はペダルを後方に展開したところで、左右のペダルそれぞれの前方を踏むことで前進、後方を踏むことで後退する。その左右にはさらに左右にペダルがあり、安全装置を外すと(写真は外した状態で、左ペダルは安全装置を左に開放、右ペダルは前方に開放)ブームを根元から小旋回させるブームスイング機能があり、左側を踏んで左ブームスイング、右側を踏んで右ブームスイングする。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
12/前方右側に設けられたブームスイングのメインスイッチ。このスイッチを投入することにより、最左右のペダルを踏むことによって左右にブームスイングさせることができる。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
13/前方の前後進レバーの下にペダルを設置したことにより、左右それぞれのレバーでブーム、アーム、先端装置の操作をしながらの前後進が容易になっている。
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
14,15/前方の2本の前後進レバー下にペダルを装備しない重機で、前後進しながら両手でブーム、アーム、先端装置の操作をしたいという時は、写真のように足を曲げて2本のレバーを操作して車両を前後させることになる。(上級テクニック)
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
震災対応に強くなる重機訓練法 取手市消防本部
16,17/前方の前後進レバーの下にペダルがある場合は、左右それぞれのレバーでブーム、アーム、先端装置の操作をしながら、ベダルでクローラーを前後逆に動作させることにより機体を回転させることも可能になる。ペダルを装備しない前後進レバーだけの状態ではこの動作は不可能。

次のページ:
基本動作の展示

Ranking ランキング