「平成29年アスクル倉庫火災」<br>あの巨大倉庫火災の経験をこれからの活動に生かそう

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「平成29年アスクル倉庫火災」
あの巨大倉庫火災の経験をこれからの活動に生かそう

伊藤克巳
NBCR対策推進機構特別顧問 元東京消防庁防災部長

Jレスキュー2018年7月号掲載記事
写真◎入間東部地区事務組合消防本部(特記を除く)

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埼玉県三芳町であった巨大ロジスティックス・アスクル倉庫火災は平成29年2月16日9時頃に出火したもので、火災の時の大騒動は今や昔となった。総務省消防庁では「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会」が立ち上がり、平成29年6月に検討結果が出され、日本火災学会においても検証された。しかしその内容は消防戦術を焦点にしたものではなく、主に消防設備や防火シャッターの不作動を問題にしており、消防職員が本当に知りたい現着時の状況や困難だった2階進入の真実、内部での爆発の恐怖などは検討されていない。そこで今回、地元の消防本部である入間東部地区事務組合消防本部へのインタビューに基づき再度あの火災を消防職員の目で再検証してみたい。

写真左角が出火点の破材室。

アスクル倉庫火災の概要

火災概要

火災があったのは幅240m、奥行109m、延べ面積7万1981㎡、東京ドームの1.5倍という巨大な倉庫である。この建物の北西側1階にある「破材室」から出火し、1階103㎡、2階2万3139㎡、3階2万739㎡、計4万3981㎡を焼損したのである。幸いにも死者はゼロであり、初期消火で2名の従業員が負傷したが、当時在館した方は皆無事に避難できた。この火災の特異性は、消防隊があれほど早く現着したにもかかわらず、2月16日9時14分(覚知)から鎮火の2月28日17時まで延々と13日間も燃え続けたことである。私も経験があるが、この間の隊員の安全管理や兵站業務、市民への配慮など消防本部のご苦労に頭が下がる思いである。

事業所における初期消火

出火したのは倉庫北西端にある破材室。ここは廃棄段ボールの集積場所であり、箱状のままの段ボールが2階からベルトコンベヤで運ばれ投棄され、クランプリフトが先端のアタッチメントでつぶしながら搬出する。本来であれば火源となるものは何もなく、燃え始めれば手におえないことはわかっていたはずだ。出火時は破材室にいた作業員が焦げくさい臭いを感じて振り向くと、床から50cmくらいの炎が上がっていたのを見つけた。彼がクランプリフトを運転していたのかどうかは資料からは確認できないが、出火原因に何らかの関与をしていたのかもしれない。彼は着ていた上着を脱いではたいて消そうとしたが消えなかったため、直近の消火器を取り噴射した。この時間は9時07分頃だとしている。自火報の鳴動により付近で作業を行っていた4名の従業員が協力して消火器で消火に当たったが、火勢が強く消火には至らなかった。その直後としては遅すぎる9時14分に119番通報が行われた。これが1番目の失敗だ。同時刻には他の従業員も現場に急行し、消火器による消火が行われたが、火勢が強いため屋外消火栓を用いることにし、2名の従業員が2カ所からホースを延長して消火に当たったが、ここで2番目の失敗があった。なんとポンプ起動ボタンを押していなかったため水圧水量が得られず初期消火に失敗したのだ。この時点で2階への通報がなく、延焼経路である開口部への手当てが全くなされなかった。1階と2階が筒抜けになっているという構造上の問題があるものの、これが3番目の失敗で、これらはすべて自衛消防隊が機能していれば起こりえない内容だ。

直近の消防隊出場

この火災現場から最も近いのは入間東部地区事務組合消防本部の三芳分署。直線距離にして約1km、道なりで1.5kmである。現着は9時21分。覚知から7分の迅速さである。化学車はタンク車タイプなので放水までに1分として、9時22分には50mmホースのガンタイプノズルで1線放水開始をしている(これはすばらしい活動だ)。次いで西1は火点破材室へさらに50mmホース1線を2階へ通じるベルトコンベヤに三連はしごをかけ延長したのだった。

アスクル倉庫のその後

今回の取材に伴って、あのアスクル倉庫の現場にもう一度行ってみた。すでに倉庫は取り壊されていると聞いていたがどうなっているのだろう? 三芳分署の前を通って関越自動車道の上を通過し、下道を右折する。この辺はかなり人家もあり歴史も感じられる。ある方が巨大倉庫は人家が少ない場所に設置すると言っていたがそれは違う。ここから少し進んで上富を右折すると、大きな倉庫や工場も見える。少し行くとアスクルがあった場所だ。前面の道路は思ったより狭いし、他に道路がないのでここに多数のポンプ車が停車していたらかなりの交通渋滞が発生しただろう。右方向にかつては巨大な倉庫が建っていたのだが今はその面影もない。まさに取り壊しの最中であった。私は敷地内に車を止め、あったはずの倉庫に沿って北西側にたどりついた。

消防本部に訊く

4月某日、入間東部地区事務組合消防本部に伺った。庁舎は明るくモダンな作りでセンスが良い。1階に広報スペースがあるのもいい。

出迎えてくれたのは当時、現場で指揮を執った長谷川信之指揮隊長。ありがたいことに塩野浩消防長と坂寄節夫警防課長にも同席いただいた。この火災について質問形式(Q&A)でお話を訊いていくことにした。

出火点に正対するように指揮本部が設置された。
平成30年4月のアスクルの現状。破材室の角あたりから取り壊し中の倉庫の全景を撮ったものだが、この曲がった鉄骨が何か悲しげであった。(筆者撮影)

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