「平成29年アスクル倉庫火災」<br>あの巨大倉庫火災の経験をこれからの活動に生かそう

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「平成29年アスクル倉庫火災」
あの巨大倉庫火災の経験をこれからの活動に生かそう

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まとめ

消防本部での貴重な体験をお聞きして、これからさらに巨大な消防対象物が出現する中で消防はどのように対応すべきか私見を述べる。

内部進入、複数筒先配備、早期の応援要請が基本だ

消火できる臨界点を超えた倉庫火災は内部進入が困難である。このため、平時から大規模建物の査察を強力に進め、リアルタイムで消防部隊も同行して火災のシミュレーションを行っておく。収容物の状況や開口部の状況、冷凍倉庫の場合は可燃性のサンドイッチパネルが使用されているかどうかなど、確認しておくべき事項は多い。しかし危険性が高いことは十分に理解しながらも、延焼状況を見て内部進入しての消火は必要で、複数大量放水で鎮圧を図る。さらに倉庫火災で延焼中であれば直ちに応援要請をかける。

要救助者情報と危険情報を最優先

通報時からその倉庫には何人の方がいるのか。危険物質は何か、何が燃えているのか、崩壊危険はないか、周囲への環境汚染等などを最低限聴取し、最先着に情報を共有させる。最先着隊長は、要救助者が確認された場合は早急に1線を開口部の正面をさけながらストレート注水すべきだろう。情報共有は消防だけに限らず、警察、市町村、医療機関などと同時に可能とするシステムも今後は必要だ。

吹き返したら即、退却

高温の密閉空間に放水するとそれが瞬間的に水蒸気となり、体積が1700倍にもなって爆発的に開口部から噴出する。厳密には水蒸気爆発とは「水が非常に温度の高い物質と接触することで急激に気化されて発生する爆発現象」のことで、放水が水蒸気爆発を起こすのではない。ただこれに近い現象が起こることは、倉庫内の火災温度がかなり高いことを示しており、退却の目安となる。

アルミ製窓枠が溶けていたら進入困難

近所で木造3階建ての老朽した建物が全焼したが、6m離れたビルの1階の窓枠が溶けていた。すさまじい輻射熱があった証で、ポンプ車が前面に停車していれば全焼していただろうし、消防隊員も重傷を負ったはず。倉庫火災でこれから進入する階でアルミニウムが溶けていれば、それは660℃以上に達していることを意味する。進入は困難だ。

放水のための破壊をためらうな

倉庫火災は開口部が少ないのが特徴であるが、保冷倉庫など無窓の倉庫は別にして、小さな窓は存在する。放水する場所やはしごからの放水を考えれば、これらの開口部を破壊することをためらってはいけない。関係者に了解をとり倒壊危険も考慮しながら最も効果的な破壊をすべきだ。

アスクル巨大倉庫の火災でも東京シューズの火災でも、耐火の屋上や壁面に重機で穴を空け、直接消火している。

耐熱性無人放水ロボットの活用

進入できない倉庫火災には、やはり自ら倉庫内に進入できる耐熱性の消火ロボットが必要である。このロボットは長距離送水車とセットとし、できれば自動ホース延長を可能とした車としたい。放水能力は最低2000L/分以上欲しい。消防水利は、平時と非常用飲料水を兼ねて1000tクラスとすべきだ。難しいとは思うが、巨大空間での災害ではドローンが内部を飛行し情報を取れるようにすべきだ。

防火管理体制の一層の強化を図れ

防火管理の要諦は、従業員に対する教育訓練である。毎日仕事に追われている従業員に消防設備の管理や初期消火の訓練、あるいは通報、避難誘導などを求めるのは難しいかもしれないが、せっかくの屋外消火栓も起動ボタンを押さなければ消える火も消えない。ホテル・ニュージャパンでは屋内消火栓が使用できなかった。また初期消火と同時に通報がなされていれば臨界点を迎えることはなかったかもしれない。企業のBCPを考えたときに、実はこの防火管理体制が極めて重要なのだ。新人研修や企業の体制強化、連帯感の醸成なども加味した、多目的な防災管理を進めるべきだろう。

通報は自動直接通報に

病院や介護施設などには自火報(自動火災報知設備)と連動して自動で119番通報できる火災通報装置があるが、臨界点を超してしまうと消防の手におえない施設も早急に自動通報にすべきだ。誤報や警備業との兼ね合いはあるが、出火から通報までの時間を短縮するのはこの方法しかない。

消防力の限界を知る

東京都の多摩地域の市町村は消防事務を東京都に委託しているが、その委託費は当該年度の地方交付税消防費市町村分である。具体的に言えば平成29年度の算定は住民一人当たり1万1300円で、10万人都市であれば11億3000万円となる。東京都もこの基準に少しプラスするくらいの消防費となっている。つまり消防予算は地方交付税の額で決まってしまうのだ。その消防力はというと、消防職員132名、ポンプ車8台、救急車5台、救助車1台などである。交付団体ではどうしてもこの壁を越えられないので、大災害時には自分の持てる消防力を勘案し、埼玉県のように自動的な相互応援の枠組みを作るとか予備車を活用する、職員を市内に居住させ災害時には出場させるなどで対応する。あるいはディフェンシブな活動に徹するべきかもしれない。

法的に消防用設備を強化すべきか

アスクル巨大倉庫のように、可燃物が大量に貯蔵されているような場合、建物の一部にスプリンクラーを設置しても効果はない。それでは人命危険が少ない倉庫などでも、すべてにスプリンクラーが必要なのだろうか? 結局は燃える材料は使うな、スプリンクラーを全施設に設置、感知器はすべての空間に設置、階段室には附室と自動閉鎖の防火扉を設置、防火区画は感知器連動で完全な自動閉鎖式を設置しろ、と。そのための費用はどんなにかかってもよいのかと言うと、私はそうではないと考える。消防設備等の防災投資額と被害額の関係を考えてみると、投資金額に応じて被害額は一次曲線的に減少すると考えられるが、実際の減少率は、基本的な防災投資が最も効果的で、徐々にその効果は減少する。このため最も効果的で優先的な目的は、まず人命救助、安全管理であり、次いで周囲への公共危険、公害対策である。これらの対策は法律で厳しく規制すべきだが、今回の火災の主な被害は一般市民ではなく事業継続や経営に重大な支障が出ることなのである。この部分は本来自主的に強化すべきところだが、今は法律任せである。さらに、自主的な消防設備が普及しないのは、大臣認定などはできてはいるものの、まだまだ消防検定制度などの法規制が自由で自主的な消火設備を制限していることや、損害保険との連動が少ないからなのかもしれない。これから出現するだろう超巨大な建物で事業を行うからには、検知から通報、自動消火、避難誘導まで格段に高いレベルのシステムを導入すべきではないかと思う。

塩野 浩

塩野 浩

入間東部地区事務組合 消防本部
消防長 消防正監

長谷川信之

長谷川信之

入間東部地区事務組合 消防本部
指揮統制課 指揮隊長
消防司令補

伊藤克巳 NBCR対策推進機構特別顧問 元東京消防庁防災部長
Jレスキュー2018年7月号掲載記事 写真◎入間東部地区事務組合消防本部(特記を除く)

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