30m級はしご消防自動車(30m)秦野市消防本部
秦野市消防本部 秦野市消防署[神奈川県]
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2018年5月号掲載記事
新型梯体ではしご車はさらに進化する!!
安全・迅速・確実なはしご車の更新へ
秦野市消防本部では秦野市消防署特別救助隊が運用するはしご車を更新し、平成29年12月1日から運用を開始した。従前車両は平成6年に更新整備された30m級はしご車で、部分的なオーバーホールをくり返し23年を迎え、待望の更新となった。
管内では、中高層建物火災や工場火災事案が毎年発生しており、最新鋭のはしご車配備が期待されていた。旧車両にもバスケットとリフターは装備していたが、二つの機能を同時に使用することができなかった。そのためリフターが必要な場合、バスケットを外す作業が必要となり、リフター設定までに時間をロスしていた。また、梯上放水時でも伸縮水路管を取りつけたことにより、隊員の負担を軽減することが可能となり、他の部分への視野が広がるものとなった。
仕様書の作成を担当した秦野市消防本部警防対策課の七海廣人消防士長は、「更新車両はバスケットとリフターを同時使用できること、伸縮水路管を装備することが必須条件だった」と語る。さらに続けて、
「同署鶴巻分署に20m級屈折はしご車を配備しているため、ここ本署では直進式はしご車としての思いが強くあった。しかし、走行中に気がかりとなる梯体の先端がシャーシからはみ出すのは極力避けたかった。また、乗降がしやすいこともあり、MHを選んだ」(七海消防士長)
こうして日野MHをベースに30m梯体を装架する、モリタ製はしご車の王道を行く車両が完成することになった。
梯体は新仕様のMH
日野MH型はしご車専用シャーシをベースとする、モリタ製30m級直進式はしご車は、新型リフター、新型バスケット、新オプション機能の「作業半径切替モード」を新たな装備に加え登場した。
リフターとバスケットが大型化し、リフターは従来と比較すると許容荷重は約300kgとなり、床面積は1.4倍ほど広く、バスケットも背面の柵が外側に100mmふくらみ、活動隊員3名が空気呼吸器を背負っても支障のない広さになっている。
そして今回、取り入れた新オプションが「作業半径自動切替モード」だ。
これまで要救助者救出ではバスケット内の荷重が増え、約180kg(1800N)を越えた場合には、2700Nモードに手動で切り替えなければならず、最大作業半径が狭まってしまっていた。
「作業半径自動切替モード」は、バスケット荷重とアウトリガ張出幅から最大作業半径を自動的に無段階で切り替えてくれる機能だ。すなわち、荷重約180kgを少し超えてしまってもモードを切り替える必要がなく、荷重にあわせた最大作業半径に自動で制限してくれる。このことにより、迅速な要救助者の救出に繋がる。
フロント
リア
ルーフ
キャブ
少ない人員でも安全に使える車を
23年ぶりの更新となった新はしご車は、各種安全装置や自動制御機能が飛躍的に向上し、様々なオプション機能を選択することができたが、秦野市消防本部ではやみくもにオプション機能を装備することはしなかった。優れた機能を多く備えることは、機械頼みのはしご操作となってしまい、技術レベルが低下することを懸念したのだ。
「はしご車の基本操作は『起伏』『旋回』『伸縮』で、少人数の隊員でも最大の力を発揮できる車両設計をめざした」(七海消防士長)
そこでオプション機能は省力化を目的とした装備にしぼり、慎重に検討を行った。たとえば自動制御装置としては前述の「作業半径自動切替モード」だけでなく、「自動収納装置」「メモリーコントロール機能」、安全装置としては「後部・キャブ双方向通話機能」「L-VAS」などを搭載し、安全性と操作性の向上に努めた。さらにバスケットには「スーパーインポーズカメラ」を搭載し、Wi-Fiにより映像をはしご基底操作部、さらに指揮隊のタフブックへの画像伝送も可能とした。
はしご車を動かすのはあくまでも隊員だ。オプションを適切に選択することにより、隊員の目となり耳となり声となる、新たな頼もしい相棒が誕生した。
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