救助工作車Ⅱ型 秦野市消防本部
秦野市消防本部 秦野市消防署[神奈川県]
写真・文◎伊藤久巳
Jレスキュー2017年9月号掲載記事
特別救助隊発隊、目指したのは居住性MAX!
救助工作車更新に伴い特別救助隊、発隊
秦野市消防本部では秦野市消防署に配備する救助工作車Ⅱ型を更新した。ベースは日野レンジャー5.5t級シングルキャブ増トンシャーシ(4輪駆動)で、帝国繊維が艤装を担当。平成29年2月7日に配備され、3月1日に運用を開始した。そして、車両更新のタイミングに合わせて同本部では、消防署配備の救助隊を特別救助隊へと格上げした。
今回の車両更新計画は緊急消防援助隊への登録が前提となっていた。全国の大規模災害に出動する緊援隊は、長距離、長時間移動を余儀なくされる。当然ながら出動隊員への負担は大きく、現着前にどれだけ体力を温存できるかは大きな課題だった。さらに令和2年には新東名高速道路の管内区間が開通し、地域の特性上トンネルが多く建設されるため、トンネル災害も視野に入れた仕様が検討された。
平成27年度からはじまった救助工作車仕様検討委員会には警防対策課の担当者のほか、震災資機材の収納スペースも考慮し、庁舎維持管理担当職員や救助隊からも隊長と小隊長が委員として選出され、他消防本部やメーカー工場の視察を重ねるなど、秦野消防の一大プロジェクトとして計画、設計が推進された。
居住性を最重要視してバス型に
諸々検討の結果、更新する救助工作車はバス型とした。ただ、管内には狭隘路もあるため、必要以上に大型化する必要はない。そこで県下初となる帝国繊維製シングルワイドハイルーフキャブ【HX型】を採用した。あえてダブルキャブとせず、隊長と機関員が座る前席はシングルワイドハイルーフキャブ、隊員が座る後席は積載庫前端のワイドハイルーフ部分に設けるタイプである。
そのため隊員席の設計自由度は高い。また、足元のスペースは1400mmのタイプを採用した。
当初は1200mmタイプを予定していたが、実際に乗車して空気呼吸器を背負ってみると動きにくさを感じたからである。200mm広げることで心理的にもラクになり、後席3席の斜め前に進行方向後ろを向く形で設置した補助席を使った場合でもゆとりのある空間が確保できた。これなら、緊援隊出動の際の長距離移動でも隊員の体力消耗を防止できる。
バス型の採用で車両空間が広くなったことにより、隊員はこれまで乗車前に行っていた防火衣類やハーネスなどの個人装備を出動途上で着装できるようになった。また、ユーティリティスペース収納の資機材は災害に合わせて車内で選定可能となり、現場到着後すぐに救助活動を行なうことができる。これにより要救助者への早期接触が可能となった。
1分1秒を無駄にできない災害現場において、現場に向かう時間を有効に使うことは大変重要であり、隊員らは走行中に救出システムを設定する訓練を重ねている。バス型のメリットとその努力の結果がはっきりと成果となって表れており、運用開始から現在まで、すべての特別救助隊出動事案で現着から要救助者接触までの時間短縮が実現している。
資機材選定にもこだわり
特別救助隊として必要な資機材の導入にあたっては、隊員らの意見を参考にしながら入念な選定を行った。メーカーのデモの見学や、貸し出し品を実際に使用し検証を重ねたほか、同時期に同型の救助工作車に更新した群馬県の渋川広域消防本部とは車両の仕様や資機材の選定についても意見交換を行った。
管内での交通救助事案は年々減少しているため、油圧式救助器具は検討の余地があった。帝国繊維ではオプションとしてルーカス社製がラインアップされているが、現行の大型油圧救助器具で十分災害への対応は可能なものと判断し、また継続して使用することで他の資機材を充実させた。
「安心感」を与える車両
5.5t級シングルキャブ増トンシャーシを採用したことで、先代車両の7t級後輪駆動シャーシよりも最小回転半径は小さくなり、ハンドルも切れるという。FRP製ハイルーフをはじめ、各所にアルミを使用し、車両の軽量化も図られている。
12連の主警光灯をはじめとして照明類はウィレン製で統一し、他車からの視認性にもこだわった。デザイン的には「一般市民の方に『特別救助隊が来た!』と思わせるような、安心感のある車両デザインを目指した」という。
秦野市消防本部が運用する唯一隊の特別救助隊は、この車両をもって管内すべての救助事案、山岳救助事案、火災事案、多数傷病者事案などに載せ替え方式で出動する。
運用開始後、本車両は緊急消防援助隊車両として登録された。
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