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燃料電池自動車「MIRAI」でわかる水素の特性とレスキュー方法
燃料電池自動車事故の救助活動 気をつけるポイントは?
水素ガス漏洩に注意しながら活動
前述のとおり、燃料電池自動車は高電圧システムを使って駆動している。そのため、燃料電池自動車における救助活動は、水素ガス漏洩による二次災害の危険性に留意しつつ、ハイブリッド車などにおけるレスキューと同じく高電圧システムを遮断して活動することになる。
その際にポイントとなるのが水素の漏洩を感知すること。水素タンクから「シュー」という大きな放出音が聞こえたら車両の周囲からただちに退避する。
音が聞こえなくなったとしても水素が滞留している可能性があるため、水素検知器などを利用して安全が確認されるまで待つ。
高電圧回路の遮断はハイブリッド車と同様
安全が確認されたら、高電圧システムの遮断に取りかかる。高電圧システムの遮断方法は、一般的なハイブリッド車などと同じ。まずはメーター類の点灯を確認し、電源が入っているかどうかを確認する。メーター類が点灯している場合は、運転席右側に設置されているパワースイッチを操作し、確実にOFFにする。パワースイッチをOFFにしたら、キーレスリモコンの誤動作による再起動を防止するため、リモコンを6m以上離す。
ただし、メーター類が消灯していたとしても、事故の激しい衝撃により破損しているだけといった可能性も考えられる。「メーター類のみが破損している」状況は構造上あまり考えられないことではあるが、最初からメーター類が消灯している場合こうした可能性があることを留意しておこう。
確実なパワースイッチOFFを確認できない場合、もしくはパワースイッチを操作できない場合には、次にボンネットの損壊状態を確認する。
ボンネットが開放できるのであれば、ボンネット内右側にあるヒューズボックスを開き、12Vバッテリーのヒューズを抜く。これで高電圧システムの遮断が完了する。
パワースイッチをOFFにできず、ボンネットが開放できないほど損傷している場合には、高電圧システムが遮断している確証はない。この場合は、耐電服や絶縁手袋などを装備し、感電しないよう注意して活動する。
車両破壊時のポイント
さらに内部に要救助者が閉じ込められている場合は、車両破壊を実施することになる。
燃料電池自動車の特徴は、前述の通り、水素充填口と水素タンク、FCスタックを装備し、それらをつなぐ水素配管が搭載されていること。
配管内部には低圧ではあるものの水素が残留しているので、なるべく切断しないようにする。水素配管を油圧式コンビツールおよびレシプロソーで切断し安全性を確認したJARIの実験では、水素配管内の水素の圧力は1MPaまで下がっていたため着火は確認されなかった。このため水素配管を切断することによる爆発の危険性は低いといえるが、それでも十分注意すべきである。
また、オレンジ色に被覆されている高電圧ケーブルに関しては、耐電服を装備したうえで、うっかり切断しないよう、細心の注意を払うことも必要だ。
そして何より大切なのが、事故現場で燃料電池自動車についてわからないことがあったら、必要に応じてディーラーに応援を要請することだ。
車両火災では“タンクの冷却”
燃料電池自動車の車両火災では、水素タンクが約105℃まで熱されると溶栓弁からの水素の放出が始まる。
しかし水素の燃焼自体は30秒程度で終わるため、その鎮火よりも周囲の延焼阻止を行うことを優先する。また、まだ水素が放出されていない場合は、水素タンクを冷却することにより水素の放出を阻止する。消防隊は現着後車両前方または側面に筒先部署し、活動を行う。
放出された水素が滞留していることが考えられる場合、空気濃度を薄めるためにブロアーで送風することも効果的だ。毎分10m/sの送風を行うことでおよそ20秒間で燃焼範囲を下回るという実験が出ている。
なお、水素が漏洩している場合には噴霧放水によって、滞留した水素を拡散できることが確認されているが、静電気によって着火するおそれがあるため、冷却には十分注意が必要である。
田村陽介一般財団法人 日本自動車研究所 電動モビリティ研究部
消防機関の依頼を受け、自ら出向いて燃料電池自動車対応講習を行うこともある。