東京消防庁 奥多摩山岳遭難救助

Special

東京消防庁 奥多摩山岳遭難救助

平成30年3月21日、春分の日というのに東京都西部の奥多摩では朝から雪が降り続いていた。
低山の連なる奥多摩は気軽に行ける人気の日帰り登山圏で、登山者には初心者や軽装備者も多くいる。
が、いくらなんでもこの雪の中を登る人はいないだろう。
そう誰もが思っていたが、まさかの事態が起きた。
13人のグループが雪中の奥多摩で遭難したというのだ。

写真◎東京消防庁
Jレスキュー2018年9月号掲載記事

Twitter Facebook LINE
13人が下山できない!

平成30年3月21日春分の日。低気圧の発達で上空に寒気が流れ込む影響で、気象庁は前日から関東甲信、東北の太平洋側で大雪になる恐れ、東京都心部でも降雪があると警戒を呼びかけていた。

東京都西部の奥多摩エリアでは朝から雪が降り始め、すでに数センチ積もっていた。東京都の西端の山間部一帯を管轄し、ハイキングに人気の低山を多数抱える東京消防庁奥多摩消防署は山岳救助隊を持ち、山での事故や救急事案にも対応している。祭日ともなると登山客が増えるので、山岳救助に備えるのが常だったが、この日は「さすがに今日、登山する人はいないだろう。経験豊富な登山者が数人はいるかもしれないが」というのが奥多摩消防署職員の見立てだった。奥多摩消防署管内には奥多摩周遊道路があり、二輪車によるツーリング利用が多く、土日祝日は二輪車による交通事故も多い。しかし、あいにくの悪天候でこの日、奥多摩周遊道路は通行止めで、他の道路でも事故はなかった。

19時40分ごろ、職員が夜間の出動に備えていると内線電話が入った。災害救急情報センターからで、「中国籍の人から119番通報が入り、三頭山で13人が下山できなくなっている。詳細は不明だがけが人はいない。出動可能か」という事前確認だった。奥多摩消防署は、出動は可能だと答えて電話を切るとすぐに地図を広げ、隊員全員で場所を確認した。間もなくして正式な出動指令が入った。

出動隊は、奥多摩山岳救助隊、奥多摩救急小隊、奥多摩指揮隊、青梅山岳救助隊、青梅1小隊、青梅・日向和田出張所1・2小隊、同救急小隊の8隊。全体の指揮を執るのは奥多摩消防署の室井大隊長(現副署長)。

通報内容によると、遭難したグループは三頭山山頂に登頂後、奥多摩湖に向かって下山しはじめて1時間ほどで道に迷ったもの。ただし遭難者のグループはほとんどが中国籍の方で、言葉の問題もあって詳細はわからないという。

遭難現場となった三頭山は標高1531mの山で、奥多摩湖側のほかに檜原村側、山梨県側などいくつかの登山口がある。比較的難易度の低いルートといわれている檜原村側ならば小中学生が遠足で登ることもできるが、奥多摩湖側には険しい山道もある。遭難地点は通報時のGPS情報により大体の場所が特定できていた。奥多摩周遊道路入口付近の駐車場を集結場所とし、各署所から出動隊が集結した。

通報から約1時間経過した20時40分、全隊が集結し、青梅警察署の山岳救助隊も到着した。消防と警察で入山ルートを話し合い、警察が奥多摩湖側からアクセスし、消防は都民の森駐車場(檜原村に位置する都の施設)側から入山し、2ルートから救助に向かうことにした。

真夜中の雪山、滑落者2名

消防の各隊が奥多摩周遊道路で都民の森駐車場まで移動すると、21時30分ごろから登山を開始。入山したのは奥多摩消防署と青梅消防署の各山岳救助隊、奥多摩救急小隊、青梅1小隊、日向和田1・2小隊、大隊長の計26名。三頭山での登山経験がある隊員を先頭に登山を開始した。ちなみに、奥多摩消防署の救急隊員は山に慣れている隊員が多く、山中で救急事案が発生すれば山岳救助隊員とともに山中に入っていく。

このときの奥多摩の気温は約0度。登山道にはすでに雪が30センチほど積もっており、夜になっても雪は降り続いていた。その後の情報で女性1名がけがをしているとのことで、山岳救助隊2隊は救助用のロープやカラビナなどの器具一式に加え、念のためにバスケット担架を2基背負って登ることにした。

災害救急情報センターや関係機関に状況を報告し、隊列の後方に付いた奥多摩消防署の佐藤山岳救助隊長は、「夜間の検索はとりわけ隊員の安全に配慮する必要があるので、行けるところまで行って、これ以上は危険と判断すれば、夜明けまでビバークすることも考えていた」という。一方で、遭難地点がある程度特定できていたので、行けるだろうという目算もあった。加えて、遭難者らの装備が不明で、十分な防寒や非常食の有無がわからなかったため、雪が降る中で一夜を明かさせることは危険だという判断もあっての入山決定だった。

消防の一行が入山して約2時間、おおよその遭難地点近くに、登山道から外れた雪の踏み跡を発見。それをたどって歩くこと30分、0時15分に先頭の隊員が中尾根に座り込んでいるグループ(7名)と接触した。さらに周辺240mの範囲に3名、その下に1名を発見し、そこでの聴取で、さらに下側に2名が滑落していることがわかった。1人が滑落して、それを助けようとした1人も滑ったのだという。

要救助者発見時の状況。要救助者の多くは低体温により体力を消耗しており自力で歩行できない状況だった。
要救助者発見時の状況。要救助者の多くは低体温により体力を消耗しており自力で歩行できない状況だった。

山岳救助隊は、フィックス線を張りながら斜面を降り、滑落した要救助者2人と接触。2人のうち1人は頭部を打撲しており、2人とも意識はあるものの歩けない状況だったので、バスケット担架に収容して斜面から引き上げた。

急斜面にフィックス線を設定して、要救助者を引き上げていった。
急斜面にフィックス線を設定して、要救助者を引き上げていった。
バスケット担架での搬送状況。足場の悪い山道はバスケットを保持しての歩行は困難だ。幸い雪でバスケットも滑らせやすかった。
バスケット担架での搬送状況。足場の悪い山道はバスケットを保持しての歩行は困難だ。幸い雪でバスケットも滑らせやすかった。

次のページ:
13名全員がびしょ濡れで、低体温症の症状も・・・

Ranking ランキング