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神戸レスキューの50年
ー苛酷な活動を通して培った「不屈の精神力と気概」
平成30年5月、神戸市消防局では専任救助隊発隊50周年を迎えた。
消防救助の黎明期に早くも産声を上げ、救助の意識を高く掲げつつ駆け抜けた50年の間には、阪神・淡路大震災という過酷な活動の歴史もあった。
「不屈の精神力と気概」を伝統とし、現場活動と厳しい訓練のなかで培われてきた、災害現場でけっして諦めない強い気持ち、強靭な体力、そして強固なチームワーク…。
平成30年12月19日、かの阪神・淡路大震災から24年目を迎えるにあたって行われた実践的な震災想定訓練の様子を紹介しつつ、神戸レスキュー50年の歴史を振り返ってみたい。
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写真・文◎伊藤久巳 写真協力◎神戸市消防局
Jレスキュー2019年3月号掲載記事
4割に過ぎない 大震災の経験者
神戸市消防局(以下、神戸消防)では、現役救助隊員の各種災害への対応能力向上を図るため、消防救助隊教育訓練要領を定め、毎年度4~5月に基礎訓練、6~7月に強化訓練、8~3月に応用訓練というテーマを設定し、年間を通じて計画的に訓練を実施している。応用訓練期間中の去る平成30年12月にはその一環として、「実践的震災訓練」が実施された。
平成7年の阪神・淡路大震災以来、資機材の高度化、隊員の知識と技術の向上により震災に対する消防体制は強化されてきた。だが、大震災発災直後の消防力劣勢時、混乱を極める災害現場で、救助隊員たちが限られた人員、資機材、時間の中でどのように地震災害に立ち向かうのか――。大震災を知る神戸消防だからこそできる、原点に立ち返っての訓練となった。
訓練のテーマは「一人でも多くの命を救う」、そして「できることから全力でやる」で、震災を経験したベテラン救助隊員のさまざまな思いが訓練想定に込められた。震災で得た教訓の継承が目的だ。
「阪神・淡路大震災から24年が経過した。経験者は局内の消防吏員のすでに4割に過ぎず、残りの6割は未経験者だ。経験した人間がしっかりと教えていかなければならない」(消防司令・岡田敏幸救助係長)
被災者に説明しながら活動現場へ向かう
今回の実践的震災訓練は、神戸市消防局 警防部警防課の特別高度救助・特殊災害第1~3係、救助係が企画。3日間にわたって実施され、特別高度救助隊以外の各方面専任救助隊、署救助隊の計10隊が、各係ごとに参加。朝9時ちょうど、神戸市において震度7の地震が発生したとの想定で、近隣都市からの応援部隊が現着するまでの約5時間の初動対応に主眼が置かれた。
訓練場所となった神戸市民防災総合センターには計10ヵ所の現場が設定され、内部にはダミーを含む約40名の要救助者が配置された。訓練は参加隊には事前に想定が一切通達されないブラインド方式で行われ、現着した訓練隊は、指揮隊から指示された現場で人命検索から実施。要救助者を発見すると、訓練隊員自身の判断と手法で救助活動に取り組んだ。
指揮所から現場に向かう救助隊員たちには、特別高度救助隊が扮する一般人が、
「こっちに家族が閉じ込められてるんや、頼むわ!」
「家族が返事せんのや。なんで助けてくれへんの?」
などと救助隊員の腕を引っ張りながら、震災現場さながらの様子を再現する。救助隊員たちは彼らに状況を説明し、理解を得ながら、指示された活動現場へ進まなくてはならない。これがしつこいほど繰り返されるが、それが大都市での震災現場の実情なのだ。
想定は現場経験に基づいて設定されている。救助隊員たちは一般人役の隊員にていねいな説明を繰り返しながら進み、それぞれの持ち場で救助活動を開始した。
2018.12.19 実践的震災訓練
「一人でも多くの命を救う」
「できることから全力でやる」
実践的震災訓練 10ヵ所の現場
[日本ビル]
耐火造3階建て共同住宅(1階店舗)
床下からガス漏洩、室内要救助者閉じ込め
[木造平屋建て長屋共同住宅]
火災、要救助者あり
[スポーツクラブ]
耐火造地上1階/地下1階建て
天井パネル落下、要救助者あり
[兵庫マンションA棟/B棟]
A棟は耐火造地上3階/地下1階建て
B棟は耐火造地上3階建て
建物倒壊、要救助者多数
[高速道路]
車両転落危険、内部要救助者
[山岳地域]
森林伐採作業中の作業員が木材の下敷き
[ひよどりビル]
耐火造地上4階建て共同住宅(1、4階店舗)
1階部分が座屈、要救助者多数
[北ビル]
耐火造地上6階建て無窓ビル
壁面清掃作業員がゴンドラ内取り残し、
ロープ作業員が宙吊り
[近畿マンション]
耐火造地上11階/地下1階建て共同住宅
1階部分が座屈、複数名逃げ遅れ
[電柱での高所作業員]
柱上にて宙吊り後に落下、腰部痛
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神戸市消防局 救助隊50年の歩み