Special
ドキュメント 糸魚川大火
暮れも押し迫った平成28年12月22日10時20分頃、日本海沿いの新潟県糸魚川市で発生した火災は、折からの強風でみるみる燃え広がった。
さらに風に飛ばされた火の粉が周辺各所に飛散し、飛び火による火災が同時発生。
地元糸魚川消防、さらに県内外から応援隊がかけつけて懸命な戦いを展開したが火勢は衰えず、約30時間後の翌日16時30分にようやく鎮火した。
この新潟県糸魚川市大規模火災(糸魚川市駅北大火)の延焼面積は約4万平方メートル、焼損棟数は147棟。歴史に残る大火となった。
文・写真(特記を除く)◎伊藤久巳
Jレスキュー2017年3月号掲載記事
糸魚川市消防本部、糸魚川市消防団は総力戦で戦った
木密地域での出火、風速20メートル超の風
平成28年12月22日午前10時28分。フェーン現象により南南東から最大瞬間風速、毎秒21.2メートルを記録していたこの時間帯、糸魚川市消防本部通信指令室に1本の119番通報が入電した。
「隣のラーメン店から煙が上がっている。火は見えない」
火点建物の隣家から火災発生を報せる119番通報。そこからすべては始まった。直ちに指令員は出火報を発令。普通建物火災第一出動だ。指令番地は糸魚川市大町1丁目2番7号。糸魚川市消防署本署で午前の訓練の最中、あるいは事務を執っていた当務の隊員たちは、あわただしく1階出動ホールで出動準備を整える中、誰もがその強風と指令番地に緊張していた。フェーン現象によって南寄りの強風が吹きつけ、またそこは糸魚川市の市街中心部にあって、木造建物密集地域だった。
第3中隊(糸魚川市消防本部では当務ごとに第1〜第3中隊に分ける3交替制)の責任者、当直勤務中隊長(当日は代理)は、通常の普通建物火災第一出動で出動させる指揮隊(糸魚川指揮1)、タンク隊(糸魚川タンク1)、ポンプ隊(糸魚川ポンプ1)のほか、資機材搬送用トラックの消防1号車(糸魚川消防1)の出動も選定。人員は本署当務者11名のうち、指令員2名を残した9名全員と日勤者6名を4隊に分乗させた。さらに、指揮隊には消防署長と日勤者2名も増員して乗り、現場指揮は消防署長が執ることにした。
これと同時に、青海分署からは4名の隊員が乗るポンプ隊(青海化学1)、早川分遣所からは3名の隊員が乗るポンプ隊(早川ポンプ1)が出動し、もっとも火点から遠い能生分署からは普通建物火災第一出動の基本どおり、救急隊(能生救急1)が2名増員の5名で出動した。
なお、糸魚川市消防本部のトップ、消防長は折りしも会期中の糸魚川市議会に出席していたが、出火報を受けて急遽議会を中座し、別途現場へと向かっている。
一方、出火報と同時に糸魚川市消防本部は市民に対して火災発生の広報を開始。各所に設置された防災行政無線の屋外スピーカー、戸別受信機(全世帯の半数あまりに設置)に火災が起きていることを放送するとともに、携帯電話などへの安心メールによって伝えている。これは消防団への第一出動の合図でもあり、糸魚川市中心部を管轄する糸魚川方面隊が出動している。
最先着隊現着、活動開始
強風に火炎があおられる
10時35分、糸魚川指揮1が現着。糸魚川タンク1、糸魚川ポンプ1、糸魚川消防1もほぼ同時に現着。
火点建物は延焼中で、糸魚川タンク1が直近部署してただちに放水を開始する一方、基本どおり糸魚川ポンプ1が消火栓に水利部署して中継する。糸魚川消防1からは隊員が降り、糸魚川タンク1と糸魚川ポンプ1の活動に加わった。この結果、糸魚川タンク1からは2線が確保された。
現着時、風は強く吹きっぱなしではなかったものの、断続的に南南東から強風が襲う。そのたびに火は大きくあおられていたことだろう。現場指揮責任者の消防署長は「人命救助最優先、住民の避難、延焼阻止」を掲げ、出動隊は消火活動に従事するとともに、逃げ遅れの確認、付近住民への避難を呼びかけた。この間に早川ポンプ1、青海化学1が現着して消火活動に加わり、続いて現着の救急隊、能生救急1も、さしあたり要救助者、負傷者がいないことから、消火活動に加わった。もちろん、消防団糸魚川方面隊のうち、市街中心部の各分団も現着して消火活動を開始している。
現着から12分が経過した10時47分。あまりの強風に火勢はおさまる気配がなく、近隣建物へと延焼。消防署長は通信指令室に非番者による増強隊を要請するとともに、消防団に対して第二出動をかける。
もちろん、本署、各分署、分遣所にはその応援要請を待つ間もなく、防災行政無線などの広報によってすでに非番者、週休者が参集を開始しており、4名程度の隊員が揃うごとにポンプ機能がある車両、あるいは小型動力ポンプを積載した車両を適宜出動させていった。
消防団の第二出動では、市街中心部の周囲の分団が出動することになるが、こちらもすでに火点の指令番地及び、強風を考慮した当該分団が出動可能体制を整えており、ただちに出動した。
糸魚川消防の消防力すべてを結集、必死の延焼阻止
11時をすぎると南南東の風はますます強くなり、最大瞬間風速は毎秒27.2メートルを記録していた。火点周辺では電線の切断危険があるため、11時05分に東北電力が駅前付近の送電を停止。だが、11時21分には最初の飛び火による出火が確認された。消防本部、消防団の出動各隊は懸命に延焼阻止を図るものの、延焼は一気に拡大していく。
11時35分、消防署長は消防団に第三出動を要請。糸魚川方面隊の全分団に加え、能生方面隊、青海方面隊の糸魚川中心部寄りの分団が出動する。
延焼拡大に伴い、消防、警察、市役所による避難誘導も続いており、同じ11時35分には糸魚川地区公民館に避難所が設置されている。
この頃になると、非番、週休隊員によって出動した30メートル級はしご車による俯瞰注水も実施されるなど、糸魚川市消防本部ではその持てる全能力を結集。消防車両など計16台が出動し、最終的な活動人員は74名にのぼっている(消防本部の全消防職員数は事務職員を含め90名)。出動隊員は全員が懸命に延焼阻止を目指していたが、強風にあおられた火は各所へ飛び火するなど、ますます延焼拡大の様相を見せていた。木造建物密集地域の細い路地、あるいは歩道上に設置された雁木が障害になり、消火活動が思うようにはかどらなかった。
次のページ:
総戦力での戦い