消防士になりたい人<br>第2章 消防受験必勝ガイド

消防士になりたい人

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第2章 消防受験必勝ガイド

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STEP3 採用試験に挑む【筆記試験編】

採用試験の第一関門

 採用試験は筆記試験から始まる。どんなに体力に自信があっても、ここで受からなければ消防官への道は閉ざされる。
 一般的には試験時間は2時間前後で解答はマークシート方式、正しいものや誤ったものを選ぶ多岐選択式試験が実施される。
 筆記試験で出題される分野は、大きく分けて「知識分野」と「知能分野」の2つ。知識分野は高校や大学で習った知識で充分対応できるが、曲者なのが公務員試験特有の知能分野だ。文章理解、英文理解、判断推理、数的推理、資料解釈など、短時間でたくさんの問題数をこなす処理能力が問われる。とはいえ、細かな知識が問われるわけではないので、解法に慣れてしまえば安定した得点源となってくる。
 公務員試験対策用の問題集はたくさん出版されているので、試験前にできるだけ時間をかけて練習しておこう。
 ほとんどの自治体では問題製作を外部機関に委託しているため、出題内容や傾向にほとんど変わりはない。しかし、例外が1つだけある。東京都人事委員会が問題製作を担当する東京消防庁だ。たとえば、一般的な市町村の消防職員採用試験では自然科学に地学が含まれているが、東京消防庁の場合は全45問中自然科学の問題が10問以上出題されるうえ、地学は含まれていない。
 試験の出題内容だけでなく、実施方法も千差万別。出題分野やそれぞれの試験時間については受験案内にも記載されているので、他都市のものと比較しながら読み込んでいくといいだろう。

筆記試験は独学で対策できるか?

 消防士を目指す人がけっこう悩むのが「独学にするか、学校に通うか」という問題だ。
 確実に効率よく勉強したいなら、やはり公務員試験対策講座を持つ予備校は強い味方。志望する消防本部の出題傾向に的を絞った授業や、ポイントを押さえたアドバイスなどを得ることができる。また、予備校の「消防職専攻コース」などでは、カリキュラムの中にボランティアへの参加や救命講習の受講、消防署での放水体験などが組み込まれている。さらに現役消防士として活躍している卒業生から受験や仕事についての話を聞けるチャンスも設けられているため、モチベーションを保ち続けることができる。
 将来は救急救命士として救急車に乗りたいという人には、救急救命士学科のある専門学校などもオススメ。消防職員としての公務員試験対策だけでなく救急救命士の国家試験対策も行われているので、一石二鳥というわけだ。なかには消防署と遜色ない訓練施設を持つ学校もあるから、学生時代から効率的に身体を鍛えることができる。
 しかし予備校や専門学校に通うとなると、どうしても相応のお金がかかってしまう。お金をかけたくないのならば、独学で試験に挑むことになる。現に、独学で人気本部に内定する人もいるのだから、なるべくならば余計なお金は使いたくないというのが人情だろう。
 しかし独学の場合、意思を強く持たないと勉強以外の誘惑に負けやすかったり、自分の勉強方法や勉強内容が目指す採用試験に合っているのかどうかが不安になる。これらの解決策の一つとして、公務員試験対策で有名な予備校が市販している問題集を活用して日々の勉強をこなし、その成果確認として予備校が行う模試だけに参加するという方法もある。模試という当面の目標があれば、勉強のスケジュールが立てやすく、モチベーションも維持しやすいだろう。いずれにしても、自分の性格やライフスタイルを考えて最適な方法を選ぼう。

STEP4 採用試験に挑む【論作文編】

「論作文が書けないと落ちる」!?

 一部の地域では面接を重視し論作文を廃止するという動きもあるが、全国的に見れば依然として論作文が試験の中でかなりのウエイトを占めている。東京消防庁においては「論作文が書けないと落ちる」というのが消防受験における常識だ。
 試験はその場で課題が提示され、指定の回答用紙に作文や小論文を書きあげるという方式が一般的。文字量は作文試験なら800文字程度、論文試験なら1200文字程度と短めだが、原稿用紙2~3枚を60分程度で埋めなければならないため、練習は必須だ。
 最低字数が明記されていない場合でも、1000文字程度であれば800文字、1200文字程度であれば960文字と、最低8割はクリアしたい。
 回答用紙の書式はさまざま。まさに原稿用紙といったものから、罫線だけが引かれた用紙、なかにはA4サイズの白紙1枚が渡されて書き方は自由といったところもある。こうした情報は受験案内にも載っていないことが多いので、どういった書式でも対応できるようにしておこう。

過去問を見れば傾向がわかる

 論作文試験は毎回異なる問題が出るため、「対策しにくい!」と感じるかもしれない。だが、自治体ごとのカラーが色濃く出るのが論作文試験だ。なぜなら教養試験とは異なり、論作文試験の問題は自治体みずからが製作することが多い。どういったテーマが出題されるかは、過去問題を見ればだいたい予想がつく。
 とはいえ、すべての自治体が過去問題を公表しているわけではない。過去問題を公表しているのは、東京消防庁および大半の政令市、またごく一部の市町村に留まる。
 ただ、論作文の出題パターンはそこまで多くないので、過去問題を公表している自治体の論作文試験をしっかり練習すれば、他の自治体にも十分対応できるだろう。

頻出テーマを知ろう~高卒程度~

 高卒程度の作文試験では、「自分自身の経験(がんばったこと、周りの人と協力したこと)について」や「消防職員の資質」「なりたい消防職員像について」が一番よく出題されるテーマだ。
 ただし、高卒程度でも「市民に火災予防の意識を普及させるため、重要なことは何か、あなたの考えを述べなさい。」(平成28年度・新潟市)など、多少の予備知識が必要になる問題が出されることもある。
 頻出テーマに対する自分なりの回答を用意しておき、あとは「2点あげなさい」や「○○に触れながら~」といった問題文に沿った回答に整えれば大丈夫。作文試験は年度・市町村に関わらず似たような問題が多いので、対策は論文試験よりも比較的簡単だ。

頻出テーマを知ろう~大卒程度~

 大卒程度の論文試験では「消防・市政に関する時事問題」が出題されることが多く、テーマへの予備知識はもちろん、主張を裏づける知識が必須となる。
 最近増えてきているのが、消防や市町村が抱える問題に対し、消防業務の観点から解決策を提案させるタイプだ。たとえば「近年問題となっている、緊急性が低い救急車の利用について、その適正な利用を促すための方法を提案しなさい」(平成27年度・さいたま市)など。こうした問題では、具体的な方策とその理由を記述することが求められる。
 近年出題テーマとして増えてきたのが、大規模災害に関する問題だ。たとえば、「平成28年4月に発生した熊本地震では、多くの尊い人命が失われるなど、甚大な被害が発生した。この災害から得られた教訓を、北九州市の防災対策にどのように活かすべきか、北九州市の地域特性を考慮し、あなたの考えを述べなさい」(平成29年度・北九州市)など。火災だけでなく地震や豪雨など、地域の防災をリードする消防の役割は年々高まってきている。そのためにどのように地域住民と関わっていくべきか、自分なりの意見を持っておくとよいだろう。
 消防本部が抱える問題については、すでに積極的に広報が行われていることが多い。普段からイベントやホームページを見るようにしてアンテナを張り、論文の材料を探すようにしよう。

上達のコツは?

 いっしょくたに「論作文」と呼ばれる論文・作文だが、実は求められているものは異なる。
 作文では、課題に対ししっかり答えられているかという理解力、自分の経験や考えをうまく説明する表現力が重視される一方、論文では、理解力と表現力はもちろん、自分の主張を根拠づける論理力が最も重視されるので、論理を支える事前知識は必須となる。
 この点を念頭において、あとは原稿用紙の使い方や、語尾をです・ます調、あるいはだ・である調に統一するなど、文章の基本的なルールを抑えればよい。本や新聞などで目にした言い回しを積極的に真似してみることも、表現力を上げるためには有効だ。そして最も効果的なのが、書いた文章を誰かに読んでもらうこと。自分では「よく書けた」と思っていても、実は他人から見るとわかりにくい文章になっているということは少なくない。先生や家族、友人などに頼んで、文章の内容が人に伝わっているかを聞いてみよう。

論作文に出やすいテーマ

STEP5 採用試験に挑む【体力検査編】

採用試験は体力も問われる

 消防職の採用試験では他の職種と異なり、体力検査が行われるという特徴がある。筆記試験対策にばかり注意が向いてしまって、意外と見落としがちな体力検査だが、1次試験で筆記試験とあわせて体力検査を行うことも少なくなく、1次試験が体力検査のみで、体力検査の通過者だけが筆記や面接にコマを進められるという自治体もある。勉強だけに集中しないで、勉強の合間などにある程度の筋力トレーニングを行っておこう。
 内容に関しては都市によって「公表せず」としているところもあるが、一般的な内容としては上体起こし、握力、長座体前屈、立ち幅跳び、反復横とび、持久走、けんすいといったものが行われる。
 この体力検査は、消防職員としての最低限の体力があるかどうかを見極めるためのもの。隊員になって現場に出てやっていけるか? ということよりも、消防学校での初任教育についていけるだけの体力があるかが判断される。東京消防庁の体力検査項目には、1㎞走という種目がある。これは5分で1㎞を列になって走る種目で、基本的に前の人を抜かすことはできない。つまり、この種目では瞬発力ではなく持久力こそが重要視されているということなのだ。

試験の扱いは都市によりさまざま

 試験は総合的に判断するため、基準をすべて満たしていないからといって合格できないということはない、としている市町村もあれば、体力検査の得点が一定水準に達しない場合は不合格という厳しいジャッジを下す市町村もある。
 いずれにせよ、合格して採用されたならば訓練の日々が待っているのだから、筆記試験や論作文、面接の準備だけでなく、筋トレも行って体力をつけておいたほうがよいだろう。

体力検査の例

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